銀色の戦闘機
雨宮は、高度1000フィートを水平飛行しながら陸地へ向かっていた。
「だいぶ近くなってきたな。もう10マイルくらいか」
ふと、コックピット右側にある燃料計を見た雨宮は燃料計の針が全く動いていない事に気がついた。
「針が動いてない……故障か? いや……でも、燃料流入計はちゃんと作動しているな。何故だ?」
雨宮は現在の状況を頭の中で整理するためにオートパイロットを起動させる。サイドスティックとスロットルから手を離し、スモークが入ったヘルメットのバイザーを上げた。
主計器盤に埋め込まれている3基の多機能表示装置の1基に搭載品管理の表示を呼び出すと、4発装着されているASM-2空対艦ミサイルを投棄した。途端に、ガコンという音が聞こえF-2の機体がふわりと浮き上がる。
雨宮はサイドスティックに下向きのプレッシャーを与え続け、機体を浮き上がらせない様に操縦する。
「……日本じゃないことは確かだな。それに、他国の戦闘機に見つかった時に攻撃されないためにも……対艦ミサイルは捨てておこう」
「まぁ……どっちにしても、AAM-3は撃てないからな……」
軽い溜息をつくと、バイザーを下げ直し前方へと意識を集中する。無意識にJ/APG-2のモードを航法から空対空の短射程ミサイルのサブモードに入れ直した。
雨宮のF-2から20マイル前方を謎の国籍不明機に向けて飛行するサザーランド共和国空軍第13飛行隊のF-30戦闘機2機は、ヘイスロー空軍基地の当直管制官に導かれながらマッハ0.7で飛んでいた。
「おい、アルテミシア少尉。緊張してんのか?機体が、がくがく揺れてるぜ」
「た、大尉! 何故、私のような新入りを国籍不明機の対処に同行させるんですか!」
「お前さんは、筋がいい。昨日の中佐との勝負見てたぜ。あそこまで中佐を追いつめられるんなら、アンノウンの1機や2機くらい追い回して撃墜してみろ!」
アルテミシアと呼ばれた女性の少尉は30代後半のベテラン大尉に連れられ、ACM訓練を中止して国籍不明機への対処を命令された。
「げ、撃墜って……」
「お前は何のために空軍に入ってパイロットになったんだ? 敵を撃墜するためじゃないのか?」
「わ、私は飛行機が好きで空軍に入ったんです!」
「……そうか。じゃあ、今日からその認識を改めろ。空じゃ一番強い奴が生き残るんだ。そんな意思で空軍に入ったんなら戦闘機から降りて輸送機のパイロットにでも転向しろ」
ベテランの大尉が放った言葉にアルテミシアは二の句が継げなかった。
「まだ、レーダーには映らんか……」
大尉はレーダーを睨むが変化は起こらない。
そんな、サザーランド共和国空軍の戦闘機部隊は雨宮のF-2のレーダー――J/APG-2に既に捕捉されていることなど知る由も無い。
火器管制レーダーを空対空モードに切り替えた雨宮は、F-2の前方15マイルに2つの反応を見つけた。
「マッハ0.7? このコースを取っていれば数分後にはすれ違うな」
やがて、2つの機影は米粒ほどではあるが雨宮の目に入ってきた。だんだんと大きくなってくる機影に雨宮は、驚く。慌ててオートパイロットを切断すると軽く機体を動かし、いつでも逃げられるようにスロットルグリップを握り直した。
「な……せ、戦闘機……」
正面からやってくる航空機の編隊は雨宮とすれ違うと、左右に分かれ、F-2の半マイル上空と左側に並んだ。
「このフォーメーションは領空侵犯の対応だ……。くそっ」
雨宮は、自分がスクランブル発進した時の対応が頭によぎる。
『あー、あー、国籍不明機、聞こえるか』
突然、F-2の無線に声が入ってくる。
『貴機はサザーランド共和国の領空に入っている。直ちに転進せよ。繰り返す。貴機はサザーランド共和国の領空を侵犯している。直ちに転進せよ』
「日本語……だが、サザーランド共和国なんて国はあったか? いや、無かった筈だ」
雨宮は無線の周波数を国際緊急周波数に合わせると、無線の送信スイッチを押しながら声を出す。
「こちらは、日本国航空自衛隊第8航空団の所属機だ。質問には答えてもらえるか?」
『……日本国? 航空自衛隊? そんな国は聞いた事が無い』
返ってきた返答に雨宮は絶句する。
『質問には答えられる範囲で答えよう』
「……今日は何月何日だ?」
『8月10日だ。新暦40年のな……』
無線機のスイッチを押したまま、雨宮は呟く。
「……俺は、いったいどこに来てしまったんだ……」
ボソッと聞こえてきた言葉に耳を疑う大尉は、アルテミシアに命令を出した。
「アルテミシア。 この航空機の国籍マークと特徴を空軍基地に報告しろ」
「りょ、了解」
アルテミシアは直ぐに、F-2の主翼上の日の丸と特徴を探すと空軍基地へと無線の周波数を合わせる。
「こ、こちら2番機。国籍不明機は日本国航空自衛隊の所属機と名乗った。なお、当該機は濃い青の塗装と主翼上に赤丸の国籍マークを付けている。エンジンは単発で、両翼端に細い槍のような物を装着している」
『了解。警告を続けよ』
「了解」
アルテミシアは報告を終えると、大尉に向けて話しかける。
「大尉、どうするのですか?」
「とりあえず、こいつを基地まで連行する。お前は、今のまま後ろに付いてろ」
「連行出来るんですか?」
「やってみるしかないだろう」
ベテランの大尉は素早く、F-2の前に入るとバンクを振り、無線に話しかける。
『これから、貴機をヘイスロー空軍基地に連行する。逃げようとした場合は後ろの戦闘機が機関砲を放つぞ』
「……なぁ、もう一つ質問いいか? あんたらの戦闘機は速度がどれくらい出るんだ?」
雨宮は、頭の中で今まで見てきた戦闘機とは違う事を考えながら質問した。
『教える理由は無い』
「そうか……」
雨宮は、言葉を返すとバックミラーで後ろの機体をチラッと見る。
「葉巻型の機体に翼端の増槽……眩しいジュラルミンの銀色……武装は機関砲だけ。パイロットは分かんないな……」
その後、10分ほど頭を抑えられた状態で雨宮は、ヘイスロー空軍基地へと連行された。
どうも、時雨です
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