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動揺


『……きて……起き……て……起きて……』

 積乱雲の中で落雷を受け、いつの間にか失神していた雨宮の頭の中に「声」が響き渡る。


「……っ……誰……だ」

 声を聞き雨宮は目を覚ます。

 見慣れた場所。

 何度も何度も訓練をして身体に浸み込ませたF-2のコックピットは雨宮の頭を一瞬で覚醒させた。


「……ここはどこだ?」

 首をぐるりと回して空を見る。雲一つない透き通った青空にF-2は飛んでいた。一分ほど考えると、雨宮は手を放していた操縦桿とスロットルを握り計器を確認する。


「……楠! 川越! 九十九一尉!」

 雨宮は先程まで一緒に飛んでいた仲間の機体が周りにいないことに狼狽える。レーダーを確認しても該当する機体は映っていなかった。


「っ、無線!」

 UHFと呼ばれる極超短波無線機の周波数を弄るも反応は無く、無線はむなしく空電音を流すだけだった。


「……俺は……死んだのか?」


『あなたは死んでいないよ。ちゃんと生きてる』

 またしても、「声」が雨宮の頭の中に響いた。柔らかい女性の声が雨宮を緊張と混乱から解き放つ。


「……そうか、生きてるのか……」

 ゆっくりと息を吐き出した雨宮は再び操縦桿を握り直した。


「ところで……君は誰だ?」

返ってくるか分からない「声」に問いかける雨宮。だが、「声」は言葉を返さなかった。


「聞こえていないのか……まぁ、いい」

 雨宮は左の親指でJ/APG-2 火器管制レーダーのモードを空対艦モードから航法モードに変更すると、右手で握っているサイドスティック式の操縦桿に右方向のプレッシャーを与える。それと同時に右のラダーを踏み込んだ。F-2は右に降下しながら旋回を行う。位置エネルギーが運動エネルギーに変化するために機体は速度を上げながら下降していく。雨宮は左手のスロットルグリップ下部のスピードブレーキスイッチを押した。直ぐに、機体最後部のエンジンノズル脇のスピードブレーキが作動する。機体の速度を一定に保ちながら、とぐろを巻くように高度3000フィートから1000フィートまで降下すると、雨宮は機体を安定させキャノピーの外を眺めた。

 

「陸か……危険だが……行くか」

 雨宮は陸地のある方角に機首を向けるとスロットルレバーを前にゆっくりと押し込んだ。ヘッドアップディスプレイの速度スケールの数字は流れるように増えていった。



 新暦40年8月10日

 サザーランド共和国ヘイスロー空軍基地

 

 女は、リノリウムの床を自分の執務室に向かって歩いていた。すると、向かい側から小走りで女性の情報士官が封筒を持って近づいてくる。


「レンフィールド中佐、次の作戦の資料が出来ました。確認をお願い致します」

 中佐と呼ばれた女――肩まで伸ばした真っ直ぐな銀髪と名前の由来ともなった紅色の瞳を持つルビー・レンフィールドは、女性士官から封筒を受け取ると、ご苦労と言って歩みを再開した。


「戦争が始まってもう3年か……戦闘機も進化したな」

 彼女は、窓の外を天に向かって駆け上がっていくジェット戦闘機を眺めて呟いた。資料を片手に制帽を脱ぐと廊下の突き当りにある自分の執務室に入っていく。


 十六畳ほどのリノリウム張りの部屋の中心には、来賓を迎えるためのソファーとテーブル。そして、レンフィールドが雑務をこなす為の執務机と本棚が置かれているだけの部屋だった。唯一の飾りと言えば、執務机の隅に鎮座している単葉戦闘機の模型だけである。


 彼女は自分の椅子に腰を下ろすと、資料と制帽を机に置き机に突っ伏した。


「なんか最近めっきりと忙しくなった気がする。まぁ、仕方ないよね……戦争だもん」

 ぼそっと呟いたレンフィールドは無意識に自分の銀髪を指にくるくると巻き付けいじり始めた。数分ほどいじると彼女は手首に付けていた結ゴムで髪を結んだ。


「よし! 仕事しよ!」

 机に置いていた封筒を開け、書類を取り出すとペンを持ちながら書類を確認し始める。途端、執務机に鎮座している基地内専用の電話が鳴り始めた。受話器を取り、耳に当てたレンフィールドは先程の緩んだ口調とは正反対のキリッとした口調で自分の名前を告げる。


「もしもし、レンフィールドだが?」


「中佐、洋上に未確認機を発見しました。指揮所へお越し下さい」

 部下の切迫した声を聞いたレンフィールドは短く、分かったと告げると受話器を元に戻した。制帽を手に持つと、小走りで地下にある指揮所へと向かった。


「ドラゴンじゃないのか?」


「いや、ドラゴンはあんなに速くない! それに、お前もこのあたりはドラゴンが寄り付かないことを知っているだろう!」

 レンフィールドが地下にある指揮所に入ると口論をしていた士官達やシステムコンソール員達は一斉に彼女に向けて敬礼した。


「情況を」

 答礼しながらレンフィールドは情況説明を求める。


「では、先程12:40(ヒトフタヨンマル)時に、この基地の南西20Kmの沖合に未確認機が突如として出現しました。現在、目標は高度を3000フィートから1000フィートに下げ陸地に向け移動中です。なお、速度はマッハ0.9程です。」

 レンフィールドは腕組みをし、部下の話を聞きながら巨大なモニターを見る。そこには、サザーランド共和国全土と一部の隣接国家及び海が映し出されていた。


「スクランブルは?」


「今現在、基地北西のベスバレーにて空中戦闘機動(ACM)訓練を行っていた第13飛行隊のF-30戦闘機を2機向かわせています」

 F-30戦闘機とは、サザーランド共和国空軍が開発した世界初の主力ジェット戦闘機である。機体形状としては葉巻型の胴体中部に低翼配置の直線翼を有しており、その翼端にはチップ式の増槽が取り付けられている。機体の心臓はとある機体を研究されて製作・量産された遠心式ターボジェットエンジン1基を胴体中央部に置いており、ジェットの噴流を生成するために必要な空気は、胴体の両側面にあるエアインテークから取り入れられる。なお、機首の下部にはレーダーが搭載されている。武装は、固定武装として12.7㎜機銃を4門、搭載武装として翼下に450キロ爆弾2発を搭載可能で速度は最大速度940㎞(マッハ0.7)である。


「燃料は大丈夫なのか?」


「はい、ACM訓練開始寸前に指令を出したので問題ないはずです」


「分かった。だが、念のために此方からも上げられるように準備をさせておけ」

 

「はっ」

 部下は敬礼すると、巨大なモニターに向き直り確認及び迎撃に向かっている戦闘機隊へと指示を出し始めた。


 

どうも時雨です。

戦闘機を考えるって難しいですね……

感想や質問待ってます!

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