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Prologue

どうも時雨です。

今作はF-2戦闘機とそのパイロットの物語です。


 西暦20XX年9月10日

 九州北方空域


 秋雨前線によって、どんよりとした曇り空が空を支配する中、濃い青の洋上迷彩の塗装が施された4機の戦闘機が、対艦攻撃訓練の目標である海上自衛隊佐世保基地所属のイージス護衛艦〈あしがら〉を目指して飛行していた。


 洋上迷彩の塗装の機体──F-2戦闘機は、F-1支援戦闘機の後継として開発された航空自衛隊の戦闘機である。アメリカのロッキード・マーティン社が開発・製造しているF-16戦闘機をベースに三菱重工が開発・設計の主契約企業となり、日米共同で開発された。

 

 また、世界で初めて炭素繊維強化複合材による一体構造の主翼を採用し大型化に伴う重量増を軽減しており、空対艦ミサイルを最大4発携行可能としている。さらに、量産戦闘機として世界初となるアクティブフェーズドアレイレーダーを搭載しているだけでなく、国産高等練習機T-2を改造したT-2CCV(運動能力向上機)に搭載されていたデジタル・フライ・バイ・ワイヤ・システムによって得られた技術をフィードバックし、それを飛行制御に用いている。


 このため、F-2は戦闘機として世界最高レベルの対空能力と対艦攻撃能力を持つマルチロール機として、支援戦闘任務だけでなく、国籍不明機に対するスクランブル発進といった要撃任務にも従事している。


 

 灰色の空を飛ぶ4機のF-2は福岡県は築上町に所在する航空自衛隊築城基地から発進した、第8航空団第8飛行隊の所属機である。


「敵艦確認」

 楔形に並んだF-2編隊の先頭を飛んでいる編隊長の九十九一尉は、酸素マスク内の無線に話しかける。


「トゥエルブ・オクロック(12時方向)、90マイル(ノーチカルマイル)。位置座標を入力しろ。各機、攻撃モードに」

 それぞれのパイロットはこなれた手つきで敵艦の座標を入力した。


「ツー」


「スリー」


「フォー」

 それぞれのパイロットから了解と意味する言葉が返ってきた。


「全機急降下!」

 4機のF-2は先頭の一番機の合図を皮切りに機首を鋭く下げ、急降下に突入する。当初の計画よりも若干高い高度で標的艦である〈あしがら〉に接近したため、〈あしがら〉の装備するAN/SPY-1D レーダーにロックオンされてしまった。

 

 九十九一尉は自機の高度を海面上から30フィートという超低高度で安定させると、左手でスロットルをほんの少し後方へと下げる。ヘッドアップディスプレイの速度スケールは510ノットから500ノットに変わった。


「50マイルを切った地点で発射するぞ!」

 九十九一尉の声が二番機を操縦する雨宮 千暁二尉のヘルメットイヤフォンに入る。雨宮は頭の中で敵艦までの距離を暗算した。

 

 そんな中、雨宮は自分のF-2のキャノピーに雨粒がぽつぽつと付いてくるのを見逃さなかった。


「降ってきたか……」

 雨宮は酸素マスクの中で呟く。


「敵艦が射程に入った。全機、発射!」

 九十九一尉の声を聞き終える前に雨宮は操縦桿のトリガーを人差し指で引き絞った。だが、訓練なのでASM-2が発射される事は無い。


「離脱するぞ!」

 4機のF-2は機体を翻すと上昇を始める。


『こちら、統制管制官』

 ヘルメットのイヤフォンに声が入った。


『判定を伝える。対艦ミサイルは全弾撃墜された』


『演習終了。パンサー・リーダー、帰投せよ』


「……了解、パンサー・リーダー、帰投する。RTB」

 九十九一尉は短く応答した。


「全機、下が荒れ始めてきた。雲の上に出るぞ」


「ツー」


「スリー」


「フォー」

 了解の掛け声とともに機首を上げる雨宮はスロットルを前に押し込んだ。たちまちヘッドアップディスプレイの速度スケールと高度スケールが水の流れの如く変化していく。


「しかし、一発も命中しないなんて珍しいですね」

 三番機のパイロット――航空学生出身の楠 敦二尉は、男にしては幾ばくか高い声で話した。


「あしがらの乗員の練度が高いんだろう。最近は、日本海に飛んでくるミサイルの数がめっきりと多くなったらしい」

 九十九は計器を操作しながら後輩に言葉を返した。


「そんな時によく、イージス艦なんて出せましたね……」

 四番機を操縦する川越三尉は先輩同士の会話を聞きながら思ったことを口に出した。


「雲が厚いな……」

 雨宮は僚機達の会話を聞きながら周りに目をやった。雷特有のゴロゴロという音を聞いた雨宮は、急いで雲を抜けようとしてスロットルをさらに奥に入れた。アフターバーナーに点火したドンっという衝撃が雨宮を襲う。その瞬間、雨宮のF-2に特大の雷が落ちた。


 目の前が一瞬で白くなった雨宮は咄嗟に手で顔を覆った。雨宮はレーダー画面に映っていた僚機が居なくなったことに気付かなかった。



「ん? 九十九一尉! 雨宮二尉の反応が消えました!」 

 一足先に雲から抜け出していた川越三尉は突然の事に驚きながらも編隊長である九十九一尉に無線で報告した。


「厚い雲に邪魔されているだけじゃないのか?」

 先程のこわばった音色とは正反対の声で聞き返した九十九はレーダーのレンジを変えた。


「い、いえ、雨宮二尉は私よりも前を飛行していましたので……」

 

「そうか……」



 雨宮の反応消失は遠く離れた東京・福生市にある航空自衛隊横田基地に所在する航空総隊の中央指揮所でも確認された。


「倉敷先任指令官、北九州沖のR-134で訓練中の第8航空団のF-2が一機レーダーロストしました」

 オペレーターの報告を受け、二佐の階級章を着けた男が後方の先任司令官席から立ち上がった。


「あの周辺は今日は雲が厚いだろう? 雲の中にいるだけじゃないのか」


「いえ、先程からAWACSや地上の防空レーダーにも映っていません」


「……機器の故障……いや、それはないはずだ」

 倉敷は頭の中で予想出来うる状況を考え始める。


「先任! 日本海中部に国籍不明機(アンノウン)出現!」

 日本海側のセクターを担当するオペレーターが声を荒らげて報告した。


「小松のFを上げさせろ」

 オペレーターとは対照的な声で指示を出す倉敷はロストしたF-2よりもアンノウンの方に集中するべく頭を切り替えた。


 

本作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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