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【幕間四】車座の談義(後編)

喚ばれたわけではない。

示し合わせたわけでもない。

されど、三者が集うに因果はあった。

同時刻

羽倉城周縁の森

 諏訪軍『中央本隊』――



「儂が親父殿にお伝えしたいのは、“山火事”の事にござりまして」

「何だ、それは?」


 真っ先に反応した暮林の驚きは皆にとっても同じであった。

 “槍の奪還”と“惑わす森(幻術)”の懸案に対し“打開できる武将”の話が出てきた流れで、当然、次も関連する話が聞けるのではと、一種異様な期待感に包まれたのだが、出てきた話がまさかの“山火事”とは。

 落胆する一方、森に潜んでいるこの状況で、“自然の火計”ともいうべき山火事に巻き込まれればどうなるか――これほどの大事を一番に告げず、あまりに平然としている丹生の態度を計りかねたのもあった。


「……ああ、ご安心なされ。既に鎮火しております故」


 非難の視線にようやく気づいて、丹生は皆を落ち着かせるが、やはり悪びれた様子はない。その言動を「そこはかとなく、碓氷くさい」と評したのは暮林であったか。


「火の手が上がったのは、親父殿が彼の鎧武者軍団と戦端を開かれた、ちょうどその頃。暗がりの中、ふいに顔を照らす火の手に気づいたのが始めでござった――」


 それは林内に潜む自分たちの姿を淡く浮き上がらせて動揺を誘い、その上、光の源を辿れば樹冠の合間から天へと昇る火柱が目に入って、さしもの丹生も度肝を抜かれた。

 しかしながら火柱は幻であったかのように一瞬で消え去る。

 それでも単なる山神の気まぐれとは思えず、夢幻と一笑に付すことなどできようはずもない。事実、後に知った隊内における目撃者は半数を占めていたのである。

 だが、丹生隊が体験した怪異はそこからが本番であった。


「儂は狐狸など“化生の類い”を信じぬ」


 篠ノ女軍きっての、いや『諏訪』においても五本の指に入るであろう学士たる丹生は、碓氷を一瞥しながら断言する。


「然らば、真っ先に“敵方による何らかの策”の前触れ、あるいはそれに類するものと勘繰るのが当然至極。それ故、真偽のほどを確かめるべく、すぐに物見を送りださんとした、まさにその時だった――それ(・・)の襲撃を受けたのは」


 始めに耳を打ったのは兵の絶叫だった。その前に、異様なざわめきを肌で感じていたと、落ち着いた今なら思い起こされる。

 ともかく、絶叫が聞こえたときには“黒い何か”がそれも複数、丹生の目前に迫っていたのだ。


「今思えば、周囲に聞こえていた重く低い響きはそれ(・・)の羽音だったのであろう。鍋よりも二廻りは大きいそれが、宙を素早く飛んでくるのを目にしたとき、さすがの儂も怖気を振るってしまい申した」


 ◇◇◇


 身を強張らせたのは寸秒に過ぎなかったが、それが致命的な隙になると知ったときには、すべてが遅すぎた。


「丹生様っ」


 今でも、耳元に疾った槍風を丹生は冷や汗と共に思い出せる。それは丹生にとっての正しく“神風”となったのだから。

 振り返ったときには、主を救わんと必死に振るわれた側侍の槍が、“黒い何か”をはたき落としていた。



 キィキィキィ……



 耳障りな形容しがたい鳴き声。それを発する生き物を足下に捉えても、どうしてもその正体に合点がいかなかった。


「虫だと――?」


 それを判別するのに学はいらない。幼い時分から誰もが目にし慣れ親しんだ生き物なのだから。

 月明かりで色が判然としないが、見た目は間違いなく甲殻虫のものであった。

 カメムシとかそうした類いであるが、丹生の知るものとはあまりに大きさが違う。しかも驚くべきは、地に落ちた甲殻虫を殺すべく、新たに駆け寄り振るった側侍の一刀が金属音に近い音を響かせて跳ね返されてしまったことだ。


「何と――?」

「ならば拙者が――」


 今し方、甲殻虫をはたき落とした側侍が、自信に満ちた動きで槍を振るうが、やはり僅かに傷を付けるばかり。

 ただし、打撃の威力は殺せず踏みにじられたように、甲殻虫の足があらぬ方向に押し潰される。途端に、苦痛のせいか鳴き声が大きくなり、もがく力も強まる甲殻虫。

 あまりの暴れっぷりに側侍達が動揺したところをすかさず、甲殻虫の甲羅が広げられて再び羽ばたこうとする。


「――いかん。逃がすな!」


 丹生の命令に二人が慌てて得物を振るい、地に押さえつけたが、ここからどうしたものか打開策が見つからない。

 絶対的な体重差があるにも関わらず、わきわきと足をばたつかせる虫の力は思うより強く、しっかと体重を乗せていないと逃げられてしまいそうになる。


「しかし、どうすれば――」

「腹だ。この手の虫は、腹が柔らかいはず」


 幼少の体験を蘇らせたか、妙案とばかり声高になる相方に頷き、「ならば試してみよう」ともう一人が丹生へ無言の伺いを立てる。

 無論、丹生にとって是非もなし。


「構わん」

「では――」


 「いくぞ」と互いに拍子を合わせて、槍持ちが甲殻虫をひっくり返す。すかさず、刀を逆手にしたもうひとりの側侍が「えいっ」とばかりに突き下ろした。



 ギィ……



 それは甲殻虫の断末魔であったか。

 刀は見事に腹の真ん中を突き破り、甲殻羽根の合わせ目を刺し抜いて、地面に浅く潜り込んだ。


「やったぞ」

「見事」


 地面に縫い付けられた甲殻虫は今なお蠢いているが、目論見が成って側侍達が安堵する。満足したのは丹生も同じだ。

 光明が見えたとばかり丹生は大きく頷き、声を張り上げた。


「皆、よく聞け!! 虫けらは腹が弱い。柔らかな腹を突き狙えぃっ」

「おぉう!!」


 兵達の動きに“喝”が入ったと見るや、丹生は率先して陣を歩き回り、苦戦を強いられている兵を見つけては救いの手を差し伸べた。


「手の空いた者は、そうでない者を手助けせよ!」


 兵の背に張り付き、あるいは腕に絡みついた虫の肢を脇差しで断ち切り、宙を飛び交うそれが視界に入れば、腰に差した手斧を存分に振り抜いて叩きつぶしていく。

 丹生の異様に長い手から振るわれる斧の一撃は、十分に遠心力が乗って常軌を逸した力を発揮する。さすがに甲殻虫の防御力では抗えないほどに。

 次々と窮地の部下を救いながら、隊内を練り歩くつもりでいた丹生であったが、すぐに不要となった。

 始めは混乱していた部隊も多対一に持ち込める者達が増えるに従い、落ち着きを取り戻してきたからだ。

 特に数をこなすことで、兵達がコツを掴み始めてからは“戦い”というよりは“作業”と呼ぶべき内容に切り替わっている。

 変わらぬ味方の絶叫はあれど、だが、確実に“流れ”が変わったのを肌で感じると、丹生は支援を取りやめ陣奥に戻って一息入れた。


「しかし、これは一体どうしたことだ……」


 あらためて、何とも奇異な出来事に丹生は首を傾げるばかりである。その昔、門戸をくぐった足利学校でさえ、このような蟲の存在や怪事が日ノ本で起こり得ると教示してくれてはいない。


「されど、万事は“因”をもって“果”を成さしめるもの」


 丹生は己が至った摂理で、この奇怪な出来事に何らかの“道筋”を見出そうとする。

 火柱が上がり、大きな虫の群れに襲われた。これらが別々の事柄にはどうしても思えぬ。


「――いや、それ以前に“靄”が出たな。あるいはあれこそが“因”か?」


 答えを出すには情報が少なすぎる。

 思索を中断した丹生は、森奥の一点に視線を向ける。


「先ほど、始めに声が発せられたは、確かあちらの方であったな」

「左様でございますな。火柱が上がったのと同じ方角と覚えております」


 声を掛けた側侍が丹生の欲する答えをずばり返してくる。「やはり」と丹生は満足げに深く頷き下知を飛ばした。


「なれば、虫めらはあの火に追い立てられた(・・・・・・・)ということか」

「我らを襲ったのではないと申されるので?」

「そうなる」


 言われてみれば、対処法を見出したとはいえ、化け物虫の大群に襲われたにしては、あまりに被害が軽微すぎた。事実、群れの大半がこの場に留まらず、去ってしまっているのは誰もが承知している。特に気にも留めていない一事ではあったが、話しを繋げてみれば腑に落ちる。

 虫も動物も草木でさえも、火はすべてのものにとっての天敵と言えるからだ。


「されば、肝要なのは“あの火柱の正体”ではないか?」

「……“山火事”にでもなっていては、一大事でございますからな」


 正体云々は実に丹生らしい視点だが、別の視点に立つ側侍達も無視できぬと同意する。


「では、物見を出しまする」

「それと、虫の甲殻を集めよ」

「は?」


 思わず間の抜けた声を上げてしまい、慌てて側侍が襟を正す。そこへなにやら古株の側侍が「いつものこと」と訳知り顔で諭しはじめ、いかほども待つことなく、あらためて小気味よい挨拶を残して去って行った。


「……なにやら、苦労をかけるな」


 一人残された丹生は感慨深げに呟いた。


 ◇◇◇


「――と、まあ、以上でございます」

「最後の自戒めいたものは、余計であったな」


 話し終えた丹生に、万雷が憮然と小言を入れる。隅の方で「いや、話に落ち(・・)は付き物でしょう」と碓氷がのたまっているのは耳に入らないものとした。


「それで、“火柱”の方はどうなった?」

「これといったものは。ちなみに、辿り着くまでにも“大きな蜘蛛”や“蛮人”にも襲われ申した」

「何と?」

「それは凄い!!」


 万雷の驚きを掻き消さんばかりに嬉々としたのは無論碓氷である。即座に万雷の凄絶な眼光を突き立てられたのは言うまでもない。

 碓氷は承知とばかりに、無言で己の愛らしい唇の前に人差し指を立ててみせたが。ひどく神妙な面持ちで振る舞う所作に、かえって万雷の顔色が赤黒く染まったのは、やはり当然であったろうが。

 暮林はひとり頑なに、視線を冴え冴えとする月天に向けていた――。

 ある種、いつもの茶番が展開される中、空気が変わったのは次の何気ないやりとりが為されてからだ。


「……何故、斯様な一事を知らせなかった?」

「送り申した」


 この時、碓氷の目が細まったのは誰も気づかない。

 ひとりを除いて。


「立て続けに事が起こりすぎて失念しておりましたが、いまだ送った伝者は戻ってきて(・・・・・)おりませぬ(・・・・・)。こうして親父殿が承知しておらぬことで、儂も確信した次第」

「むう……」

「“火柱”はどこで起こっていたのです? いえ、森の周縁ではなかったのですか」


 不躾に質問を放った碓氷を万雷は咎めなかった。いつでも好きに発言することが軍議を活気づかせ、それこそが、何より大事にすべき戦勝に繋がるものと信じているが故に。

 万雷が軍代として大将を勤める際に限られるものの、常にこうした考えの下で、時には逆転勝利の奇策を産み出してきたのだ。

 だが今回ばかりは、碓氷の細められた目に気づいた時点で、万雷はすべてを任せる腹づもりであった。乱世において、十代の若さで一部隊の将にまで上り詰めたのは、決して口先の上手さだけではないことを知るが故に。

 質問の意図が読めずに訝しげな表情で丹生は首を横に振った。


「そこまで離れておらん。ただ、城には近づいたかもしれぬが」

「成る程……さすがの“幻術”も森を覆うほどではないと」

「それでも、ほぼ軍全体を包み込んでいることにはなるまいか?」


 それがどれほどのことか、若き武将の口から含み笑いが洩れ出でる。


「ふふ……聞きしに勝る力ですね。それとも、“七忍”というものが特別なのでしょうか」

「儂が知る“忍術”とはかけ離れているのは確かだな」

「そういえば、虫の遺骸を採取されましたね」

「“遺骸”ではない。言うなれば虫の“鎧”だ」


 丹生らしいこだわりを碓氷はにこやかに聞き流して言い換える。


「その“鎧”はあるのですか? もしかして、なくなった(・・・・・)のでは?」


 意味深に問いかける碓氷に丹生だけでなく他の者も訝しげに眉根を寄せる。


「? ……ここには持ってきておらん」

「でも“ある”のですか?」


 なぜか執拗に問い重ねる碓氷に、そこで、ようやく何を言わんとしているのか気づいたらしい。


「間違いない。隊を離れる前にこの目で見たからな。あれは幻ではない(・・・・・)

「――まことですか?」


 丹生が断言した途端、碓氷の顔に明らかな失望と戸惑いが表れる。


「奇っ怪な生き物が“まこと”で、伝者が消えたのも“まこと”……それでは……」


 いつもの微笑を消し、やけに真剣な表情で己の考えに入り込んだ碓氷の珍しい姿に、万雷はじめ居合わせた面々は、気圧されるような感じでしばし見守る。ほどなくして――。


「“火柱”の上がったところに物見を放っていましたか?」

「そこまでは。北側を固める儂らに奇襲の恐れはない故に、物見は隊の近くに配置していた」

「ふむ……物見に対する(・・・・・・)術ではないと……」

「?」

「ではもうひとつ……“火柱”の上がったところには、何もないと申してましたね」

「左様。辺り一面焼け焦げとなっていた故、あれも幻ではなかったようだが」

「何かの遺骸とかも?」

「…………」

「何かの遺骸とかも?」


 ふいに黙り込んだ丹生に、碓氷が淡々と質問を繰り返す。二度目の問いでは“遺骸”の言葉に殊更力を込めて。

 だが、普段の言動からは想像もできぬ碓氷の鋭い眼差しを丹生は鉄壁の無表情で沈黙を保つ。そのまま奇妙な睨み合いが永劫に続くかと思われたとき。


「何が大事かは分からぬぞ」


 力強くも励ますような万雷の声に、丹生は背中を押されたのかもしれない。


「……儂にもようく分からぬのだ。“あれ”が何なのか」

「“あれ”とは何です?」

「“あれ”は――“あれ”を儂が見つけたのは偶然だった」


 その声には明らかな“後悔”が滲んでいた。大名に仕える軍師を排出した足利学校の門徒であっても、その智恵か易学で避け得ぬものがあると、その苦渋に満ちた顔が語っている。


「いや。あそこに行けば、誰であろうと嫌でも気づく。……ちょうど、焼け野原の真ん中あたりに黒々と蟠る(わだかま)“何か”があった」


 どれほどの熱が渦巻いたのか、すべてが消し炭となり死んだ木立が乱立して黒い針山となった広場の中央に、丹生は気になるものを見咎めた。

 十畳ほどの広さしかない小さな黒き丘へは、丹生は何気に近づいただけで他意はない。

 手持ちの槍でつついたのも、ほんの出来心であった。

 ひと突き、ふた突きと、まさに墨をつつく感触がふいに変わった。


「その時、異様な手応えを感じた。だが初めてではない。むしろ戦で数えきれぬほど味わった感触よ」


 刃先で大きくこじる(・・・)と、むっとする生焼けな肉の臭いが溢れてきた。いつぞやの、激しい乱取りによって、焼け落ちた村に立ち寄ったときを思い出して、吐き気を覚えたものだ。


「一見して見事に炭になっておったから、近づいても熱気を感じるだけで、焦げ臭さ以外に何も感じなかった。それ故に無防備であったのよ……さすがに肝を潰しかけたぞ」


 しきりに鼻を鳴らすのは、今も鼻腔にこびりつく悪臭を感じるせいなのか。鼻にしわ寄せ、苦い声で続ける。


「何の骸かは儂には分からん。そもそも骸だとしても大きすぎる」

「それは何だと思います?」

「…………」

「何だと思います?」


 またも執拗に問われて丹生はもう一度鼻を鳴らした。苦渋は、己が学徒であることを否定するかのような呪詛の表れでもあったか。


であろうよ」

「?!」

「正しくは“人”の形に見えた。然るに、あのような大きさの“人”がいようか? あのような燃えかすになろうか? いずれにせよ――」


 それ以上、言葉は続かなかった。

 異様な空気が見えない靄となってその場に立ちこめているようだ。まるで、深夜に体験したあの靄のように。

 “幻術”では説明しきれない奇怪な丹生の話。その体験が現実であるとするならば、一度は解明されたかに見えた物見や伝者失踪の真実が、再び濃密な霧に呑み込まれてしまうことを意味するのではないか。

 だが、ある意味それも当然のことだろう。

 “異様な鎧武者軍団”の次には、“神隠しの森”に“奇怪な蟲の強襲”――何より、自分たちを天蓋より仄かに照らす“二つの月”を忘れてはいまいか。

 そう。

 この場で語られぬ、万雷の“陰陽の禁術説”にも無理がある。


「御免――」


 やおら、丹生が手を上げた。どうしたと物問いたげな面々を尻目に大胆にも酒を所望し、あらためて万雷に許しを請うてから一息に呑った。

 呆気にとられた皆が見守る中、三度目で口を拭うや、そのまま黙り込む。

 思わず顔を見合わせる者達に非難の様子は見られない。なにやら深い黙考に没入した碓氷を放り投げて、「自分らも呑るか?」と目顔で語り合っていたからだ。

 新たな情報がもたらされるたびに深まる混迷。

 気晴らしの酒も欲しくなろうというもの。


「生意気な我が腹心に――」


 万雷の一声で静かに酒盛りが始められる。思索に耽っていた碓氷もこの時ばかりは皆に倣った。


「まず、秋水と連絡を取る。そこで特段の報せがなければ、“槍の件”は秋水に任せる」


 酒が入り、次第に重苦しい空気が弛緩してきた頃、万雷があらためて下知した。


「その役目の途中で、森から出られるかどうかも、その対処もはっきりするだろう。まさに一挙両得とはこのことよ。異論はあるまいな、忠助?」

「御意」

「次に、物見を残し、広めに展開している陣構えを“方陣”にて集約させる。夜が明け次第、城に戻るものとする」


 それでは、と武将達がざわめくのを万雷は手で制す。


「これほどの怪事、敵方とて無事で済むとは儂には思えぬ。だが、確認するにしても森から出られぬでは話にならぬ。それ即ち、当初の目論見を果たすのが困難ということ」

「ならば結局のところ、この城外布陣にも意味はないということですな」


 得心する暮林に万雷は頷く。


「相手が“人”であれば儂の考えで対処もできよう。然るに、相手が“怪事”ともなれば、自慢の“神通力”が通じるかは分からぬ」

「いや、そのようなことは」

「よい」


 色めき立つ暮林に、万雷は穏やかな口調で落ち着かせる。


「あまりに伝えるべき事柄が多いのもまた事実。ここは一度、城に戻るのが筋であろうよ」


 それに、と万雷は意地悪く暮林に笑いかける。


「“二つ俵”がなければ戦力になるまい」

「いや、そのようなことは――!!」


 今度こそ、暮林が顔色を失って土下座せんばかりに姿勢を正す。


「それ、やはり落ち(・・)は必要でござりましょう?」


 碓氷の声は、無論、無視された。

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