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(四)覇道の終焉④



  一度 生を得て――



     滅せぬ者の―― あるべきか――




 耳にしているうちに、戦意というよりも、己の内にある余分な力み(・・・・・)が消えていることに気付く。

 あらゆる雑念が取り払われ、ただ己の役目にのみ集中できる。


 かく、あるべし――と。


 もしやすると、帝国の力の源泉は、この声にあるのかもしれない。

 すべての国々は、「皇帝ドルヴォイの下にひとつとなるべし」と迷いなく振るわれる剣の力強さに、幾つもの国々が屈したのではないか。そう納得してしまう。



「むう……」



 先頭のひとりが目を細め、鼻や口を手で覆う。

 たどり着いた先は大広間となっており、そこは建築の方向性を唐突に転換したように、八割方が木造仕様の異文化漂う構造となっていた。


 はるか高みにて、星座を描いたような太い梁の組み合わせは、木造の脆弱性を補うための補強か、あるいは“天意を顕した特殊な意匠”なのかすらも分からない。

 何となく、森精族エルフの建築様式に似ていなくもないのだが。


 惜しむらくは、“歴史的価値”や“芸術的価値”の両方から重宝されるべきそれが、ごうごうと炎に巻かれて白煙を上げていることだ。


 ここで一体何があったのか、廃寺は炎に包まれ、その長き歴史を閉じようとしていた。


 

「『覇王』自らか……」



 そこに軽い驚きが混じるのは、魔獣の唸り声に似た炎風の唸りとパチパチと木片が爆ぜる音にも負けず、大口を開けた壮年が、上半身をはだけて(・・・・)何かを舞っているのを目にしたからだ。

 その傍に護ってくれる騎士の姿はない。

 全員がことごとく倒れ伏していた。


「おい――」


 別のひとりがなかまを促したのは、長躯ガリア族と思われる体格のいい騎士の死体を踏みつける人影に気付いたためだ。


 それは 『怪物モンスター』とは似て非なるモノ。


 “魔蟲に似た形骸”の異文化漂う黒づくめの鎧具足に、黒光りする反りの入った片刃の剣。

 まるで死霊の王がごとく、幾つもの騎士の遺骸を足下にはべらせるのは、まわりの空気さえ翳らせる異質の気をまとう妖異なる騎士。

 いや、大陸文化とあまりに異なるが故に、本当に騎士職なのかすらも定かでないが。


「……むぅ」

「まさか――『黒武者クロムシャ』でなく『黒母衣クロ・ホロ』か?!」


 今度こそ、明らかに驚きを露わにする彼ら(・・)が口にするのは、“襲撃者の格付け”だ。


 因縁の深い彼ら(・・)だからこそ、積み上げた知見で独自の脅威度を格付けしている。その位階は『黒(ブラック)装束・クロス』からはじまり、最高レベルの『黒母クロ・ホロ』で上限となる。


 戦力で云えば、『探索者』と呼ばれる戦闘巧者を最高レベルで数名取りそろえ、集団パーティ戦で挑むことが最低条件とされるほど。


 単騎でケタ違いな強さを誇る彼ら(・・)でさえ、三人で足りるとは言い難い。

 そんなとてつもない相手が出張ってくるなど、最悪を想定していたとはいえ、認めがたい事態であった。


「正直、このような地へ顔を出すのは『位階三位』までと思っていたが……」

「だが事実は事実。いや、もしかするとこの廃寺こそが――」

「――『遺跡』と同格の存在ということか」


 得心した声に、反論はなかった。


 この廃寺そのものが、長い時を経て『遺跡』と同じ存在になったとすれば、確かに高難度の『怪物』(モンスター)が巣食っても不思議ではない。


 ましてやその生態が謎に包まれたままのそれ(・・)であれば。正直、いまだ『怪物』に分類してよいのかさえ定まっていないのが現状だ。


 とはいえ、今回の出現に限って云えば、『遺跡』云々が理由でないことを彼ら(・・)は知っている。ヤツが何かを意図してここに来たということを。

 だからこそ、その目論見は自分達が阻まなければならない。そのために、彼ら(・・)はここにやってきたのだから。

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