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(三十一)あふれる森の悪意②

亥の刻

羽倉城周縁の森


       ――同盟軍最左陣『八真隊』





「よいかっ。明日は宿敵“諏訪の大樹”を伐り倒す決戦の刻――」



 八真は迫りくる軍影に対し、あえて背を向けながら、我が下へと駆け寄る兵らを睨み据える。



「今こそ内なる恐れを払えっ。己が『犬豪」であると、あの月天に示すのだっ。たかが()食い(・・)熊なぞ(・・・)返り討ちにし、神仏に捧げる供物としてみせよ!!」


 おおう!!


「怖れるな、払え、打ち勝ていっ。我らも神仏にあやかり熊を喰らい、その精を骨肉に染み込ませ、獣の力を手に入れろ!!」


 おおう!!!!


 将の檄を受け、困惑や戸惑いから一転、兵の顔つきや目の色が鋭く尖り、抗戦の戦意が劇的に湧き上がる。

 

 この際、“熊”であるか否かが問題ではない。曖昧な発言で兵を動揺させ、恐怖を植え付けることの方が問題だ。

 ヘタすれば軍の離散さえも、あり得るだけに。


 それが“兵”というもの。


 なればこそ、八真は“人食い熊”としてその正体を解き明かし、大義を掲げて立ち向かう意志を植え付けたのだ。


 ただの一兵に熱を注ぎ込み、類い希なる精兵へと目覚めさせるのが、この場における最善策。

 同時に“将”としての務めである。

 だから八真は、高らかに兵に問う。


「うぬらは誰ぞ――――?」


 犬豪!!

 犬豪!!!!

 

「白山一は――――?」


 犬豪!!

 犬豪!!!!


「ならば敵を討てぇい、我らが『犬豪』の武者達よ!!」



 ぉぉぉおおぅ!!!!!!



 ひときわ高い喊声が上がり、熱となって右方に陣取る他の隊にまで伝播する。

 それに呼応するがごとく、狂気の軍勢より獣声が放たれ、八真の背に叩きつけられる。


 奴らの進撃は早く、すぐ近く。 


 それでも八真は号令を放たず拳を突き上げ続け、兵達の士気を天まで届けとさらに煽り立てた。



「ゆくぞ者共っ。熊を討ち払い、白山の覇者たるは犬豪われらだと、月天に轟かせようぞ!!」



 ぉおぉおおおおお!!!!!!!!!!




       ぶち殺せっ

    犬豪の牙を突き立てろっ




 夜空に向かって迸る八真隊の大喊声。

 先よりも激しく、熱く、猛々しく。 


 それを待っていたかのように「八真様!」の声と共に、宙をふわり飛んできた槍を、掲げた手でしっかと掴む。


 ここぞ、圧力のこもった軍気を一点に向けて開放する時――




「わしに続けぇ――――い!!!!!」




 くるりと振り返り様、八真は大きく利き足を踏み出し、全身をしならせて渾身の投擲を放っていた。



 ひゅきっ――――



 そこにどれほどの“力”が込められていたのか。

 耳慣れぬ金切り音を発して、肘の先から槍もろとも霞んで消えたと見えた時には、先頭を切る鳥頭の頭部で何かが炸裂していた。



 ――――っっっ



 その衝撃で大きく仰け反った巨体が、踏ん張りきれず、そのまま仰向けに倒れ込む。


 続く小さき影達の群れが勢いを止められずに巻き込まれ、進軍の一画が崩れたことにより、全体の勢いまでが一気に弱まった。


 まるでそのタイミングを見計らったように犬塚隊の軍影が雪崩を打って襲いかかる。

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