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（十五）悪夢の防衛戦④

「儂も前に出る。二枚もあれば(・・・・・・)十分だろう」

　他人の受け売りとは思えぬ口ぶりで近習長が局面に対する見立てを口にする。

　間違ってはいない。

　これで強固な壁ができると惣一朗。

「――はい。ご助力、誠にありがたく」

「うむ」

　心より謝意を述べる惣一朗へ満足げにうなずき、近習長がずいと前へ出た。

　振り返りもせず、心得たように月ノ丞が脇へと避け、自身を中心に右へ流れていた餓鬼共を受け持った。

　同様に左へ進み出る近習長もまた、もう片割れの餓鬼の群れを迎え討つ。ただ月ノ丞は別格として、物量で攻めてくる物の怪を相手に、近習長の力量はどこまで通ずるのか？

　そのような心配は無為に終わる。

「「ごりゅうっ」」

　跳びかかってくる餓鬼に対し、

「ふんっ」

　風が唸った。

　近習長が手にしたのは脇差しの方。

　いや、剣柄と見えたその先にあるべき抜き身の刃はなく、細くて短いしなる鉄の棒が付いていた。

　いわゆる『鉄鞭』だ――それが宙に躍る二匹の餓鬼をまとめて薙ぎ払う。

　打ち据えた一点より、いくつもの骨の折れる異音を響かせながら、二匹が大地に叩きつけられた。

　続けて二匹、三匹づつと。

　餓鬼のひしめく沼を掻き分け進むように、近習長は鉄鞭を振るい、無造作に叩きつけて餓鬼を次々と葬り去ってゆく。

「ぎゃう！」

「戯けっ」

　鉄鞭を振るった隙に、別方向から躍りかかる餓鬼を左手でいなし(・・・)、右手で新手の餓鬼に叩きつけた。

　蹴り上げ、踏みつぶし。

　時にいなして、叩き砕く。

　まるで近習長を中心に発生した気流に揉まれるがごとく――勢いの衰えぬ暴力の嵐が、押し寄せる餓鬼の雪崩を吹き散らす。

「貴様らなんぞに、おめおめ落とされる城と思うてか！！　ましてやこの先へなど――」

　怒り眉を炎に見せて熱い息を吐き、

「一匹たりとて、この弦之助が抜かせるものかっ」

　左の守護神と化した近習長が吼え、荒ぶる闘気に当てられた餓鬼の動きが明らかに鈍りを見せた。

　彼らを苛《さいな》む飢餓よりなお強く、湧き上がる恐怖に怖じ気づいたように。それは期せずして月ノ丞側の餓鬼共にも同じ“停滞”を起こさせた。

　戦いの潮目が一気に変わる。

　変われば、攻めに転じて押し戻し、蹴散らせる。

　その“逆流”を“許すまじ”と拒絶するモノがいようとは。

　ぐきゅるるるるるるぅ――――！！

　それは物の怪の鳴き声かと思わせる奇怪なる苦鳴《・・》であった。

　耳にした餓鬼共がびくりと硬直し、何事かと侍達が注視する中、霞と化した城壁をすり抜けて、新たな敵が現れた。