(十四)悪夢の防衛戦③
ぴゅぴゅんと鋭く笛の音を響かせ、針剣が疾る。
見事に咽を貫かれた餓鬼が二匹葬られる。
「おぬし――」
「***っ」
異人が鋭く応じて、惣一朗には一瞥もくれずに別の餓鬼を葬る。
眼を突き、咽を裂き。
さらに湧いてくる数匹も素早い連続の突きで瞬く間に仕留めてしまう。
「*ン、******ダ」
共闘もやむを得まい、そういうことか。
苦虫を噛んだように美貌を歪ませて、それでも異人は手を抜くことなく、月ノ丞が討ち洩らした餓鬼を懸命に葬ってゆく。
「――助かる」
おかげで防衛線を保てると惣一朗。
しかし、それも長くは続かなかったが。
「****!!」
「うるさい奴だ」
これで何度目か、異人の窮地に、惣一朗がクナイを飛ばして支援する。
生じた余力を最大限に活かした異人が、餓鬼の首を切り裂いた。一匹倒すところを二匹に増やす。
やはり腕前は悪くない。
諏訪が誇る『抜刀隊』には及ばぬが、それに迫る力量が感じられる。例えまぐれにしても、月ノ丞の剣を受けきっただけはあるということだ。
あの忍術と思しき不可思議な力とも相まって、頼もしき戦力であるのは否めない。
それでも異人の“針剣”は、“数で押す”敵に対して効果的な武器ではない。それに件の秘術も何かの制約があるのか、近接戦に入ってからは一度たりとも使われない。
時折、惣一朗がクナイで支援しても、徐々に押し込まれてきたのはそのためだ。
そして、数名からなる異人の一団が、戦わずして逃走を選んでいた先ほどの事実を鑑みれば。
「もっと死ぬ気でやれっ」
「***?!」
美しき銀髪を振り乱し、肩で息をしはじめた異人の足が震えていた。恐怖のせいではない。息つく間もない極限の戦いに、早くも肉体が限界を迎えようとしているのだ。
個体同士の実力差など、“数の暴威”の前では無力――おそらく、餓鬼共に襲われた異人達も手に負えなくなり、撤退を余儀なくされたのが、事の顛末なのであろう。
「……これでは、さすがに」
惣一朗の声に苦みが混じる。
異人は精一杯やっているが、クナイの支援も間に合わぬほど、すり抜けてくる餓鬼の数が多すぎた。
月ノ丞を軸にして、ふたつに割れた餓鬼の群れは惣一朗達だけで捌ききれる数ではなかったのだ。
「せめて今ひとり――」
「……やはり、兄上の云う通りか」
どこか面白くなさげな声が背後から発せられ、風圧すら感じさせる見事な体躯の侍が、惣一朗の横に並んだ。
なぜにこの方が、という驚きを隠さず惣一朗がその者の名を呼ぶ。
「弦之助様」
これ以上ない増援が、きてくれた。




