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(十三)悪夢の防衛戦②



 話を前陣に戻して――。





 城壁を消し飛ばす怪現象に見舞われた羽倉城。

  

 そこへ狙い澄ましたように押し寄せるのは、銀髪の異人を喰らい、なお飢えに狂う餓鬼の群れ。


 何が起きた?

 どうしてこうなった?!


 当然渦巻く疑念、困惑を腹の底に押し込んで、どこか超然と立ちはだかるのは、『諏訪の銘刀』――支倉はせくら月ノ丞(つきのじょう)



「ごぶ――」

「――びう゛」



 夜気を切り裂く鋭い斬撃の音は、物の怪が挙げる苦鳴や断末魔に掻き消され、



「ぎゃが――   ――う゛ぁ」


 

 一瞬で縦に斜めに断ち切られた餓鬼の命なぞ、闇に散る。


 まるで刹那に燃え尽きる火花のごとく。続けて、



「ごびゃ!」

       「「ぐぶるっ」」



 三匹が跳び上がり、もう三匹が月ノ丞の足下へ一気に走り寄ってくる。


 上下からの一斉攻撃!


 それへ半月を描いた斬光が、最も無駄なく最速で醜悪なる鬼を斬り散らす。


 次も。

 その次も。


 それはまるで、独りきりの型稽古。

 月ノ丞の動きに合わせて、吸い寄せられるように餓鬼共が、次々とその身を投げ出してゆく。

 

 無論それは、錯覚にすぎない。


 実際は、切れ目なく押し寄せる餓鬼の襲撃に、まるで申し合わせていたかのごとく、最小の動きで月ノ丞は刃を合わせているのみ。


 時に半身となり、

 時に深々と腰を落とし、

 稀にきびすを返して、背後より迫る餓鬼を唐竹割りに両断して。


 あまりの切れ味に血風すら舞わせず、故に返り血を浴びることもなく。


 これほどの数に襲われながら、擦り傷ひとつ負わずにさばくなど、もはや常人の剣ではない。


 本来、いかなる剣士であっても、“数の暴力”に抗えるものではない故に。


 あるいは怪力無双の豪傑が“剛力”に“恐怖”という心理的圧力を加え、敵を尻込みさせることも稀にはあろう。

 “力”には“力”――それが戦いの本質なのだから。


 だが、研ぎ澄まされた“技”のみで、餓鬼共の圧力をねじ伏せる剣がここにあった。


 それは剣士が夢見るひとつの到達点ではなかろうか。


 卓越した技で力をいなし、洗練された技で反撃の隙も与えず斬り伏せる――月ノ丞の剣には、その理想型が宿っていた。




「――見事にございます」




 感服の言葉を洩らした惣一朗が、両腕を広げてクナイを放つ。


「「ぶぎゃ?!」」


 月ノ丞の両側からすり抜けてきた二匹の餓鬼が、額に鉄の角を生やして絶命する。

 だが、その死骸を踏み越え、すぐに次の餓鬼が顔をのぞかせる。


 倒しても次が。

 また次が。


 それどころか、すり抜けてくる輩が同時に二匹、三匹と増えてゆく。これでは抑えきれない。

 惣一朗の奮戦も虚しく、月ノ丞と二人で築いた防陣が、早くも瓦解するかに思えたその時。



 ヒュルリ――――



 一陣の風が吹き、刹那に醜悪なる亡者の身体が数匹まとめて切り刻まれた。


「――!」


 目をみはる惣一朗の横目で銀の髪が美しくなびき、それが異人の影と気付いたときには、溢れてきた新手の餓鬼共を猛然と迎え討っていた。

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