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(九)銀髪の鬼⑤



「――その細腕で、よい“反応”と“腕力”だ」

「***、****」 

 

 馬鹿にするな、とでも云ったのか。


 命のやりとりをする最中に、淡々と敵の技倆を吟味する月ノ丞の態度は、言葉など理解できずとも鼻につくに違いない。


 だが月ノ丞こそは、周辺地域で武名高し七名を差す『白山七刀』の有力候補に挙げられし、新進気鋭の武人。

 奢りでなく、積み上げた実績に支えられし自負が、言わしめただけである。


 片や惣一朗の方も、月ノ丞の一撃に合わせて陽動から一転、詰め寄せていた。


「もはや儂には当たらぬ」


 月ノ丞が狙ったふたりと別の異人に迫りながら、惣一朗は難なく“不可視の攻撃”を避けてみせる。


「**っ」

「無駄だ」


 驚くに値しないと。


「例え仕掛け(・・・)を見抜けなくとも、“見えない刃”を飛ばすだけならば、無芸と同じ」


 そう切り捨てて。


 一度目より二度目。

 二度目より三度目。


 次第に避ける動作が少なくなってゆき、最後には悠然と頬をかすらせ歩み寄り、わずか二歩分を残して立ちはだかる。


「――っ」


 異人が息を呑んだのは束の間。

 苛立ち紛れの美貌にいかなる秘策を隠していたのか、意気込んで突き出した掌を、だが惣一朗は手首から斬り飛ばし、懐に入り様に左胸へとクナイを突き立てていた。


 それは一瞬に吹きぬく、ゆるやかな風。


 異人は何をされたか分からず、何も感じなかったに違いない。


 その赤き瞳が光を失う。

 それで終わり。


 驚くほどあっさりとした結末に惣一朗の表情は某かの感慨さえ浮かべることはない。

 ただ油断なく、そして音もなく、事切れた異人をそっと横倒しにさせ、月ノ丞との“挟撃の形”を完遂させる。


「**っ」


 背後に違和感を感じたらしい生き残りの異人が振り返り、息を呑む。すぐに泰然と構える月ノ丞へ視線を戻すと、あからさまな焦燥を滲ませ後退りはじめた。

 奇怪な術を操るさしもの異人も、痛感したのだろう。


 力量が違いすぎると。


 だが自分達の城へ奇っ怪な術で奇襲を仕掛けてきた敵対者を見逃すふたりではない。


「何のつもりか知らぬが――」


 月ノ丞が詰問しかけたところで、異人の目が城壁のあった方へと向けられたことに気付く。


 びくついた反応に険しい目付き。


 何があったと考えるまでもなく、背筋をぞろりと撫でる耳障りな鳴き声に、月ノ丞は気付いていた。




 ごりゅごらびゅぅ

 ぶるごぶら

 ごぶるごぶるぶ




 咄嗟に半身に構えて、月ノ丞も惣一朗も奇怪な音のする方へ一瞥をくれた。

 一瞬でもはっきりと捉える。


 たった今、刃を交えた銀髪の異人と同じ見た目の数名が、こちらへ駆けてくる姿を。


 問題は、それに纏わりつく小柄な何か(・・・・・)だ。


 まるで魚の死骸にたかるコバエどものように異人たちに群がり、しかも、後からわらわら(・・・・)とたくさんの小柄な影が森の奥から湧き出してくる。



「むう。……ほんとに、一体なんなのだ?」



 月ノ丞のつぶやきは皆の気持ちを代するものだった――。

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