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貴女の為に英雄になる (旧・ココから始まる英雄譚)  作者: るるいえ
一章 冒険の始まり
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第三話 深い森の中で

 スメル山脈の樹海、そこは昼間だというのにひどく暗い森だ。木漏れ日が地面にあまり届かないほど枝は入り乱れ空を覆っている。

 足元は木に栄養が取られているのか、あまり草等は存在しないが、腐葉土で覆い尽くされていた。

 アルフレムはその様子を変な森だと感じるのだが、ユメル達はこの森しか知らない為特に感想も抱かず、すいすいと進んでいく。

 ふと、思い出したようにユメルは視線を前方に向けたまま、アルフレムに尋ねた。


「そういえば、貴殿はこの森の何を調査するのだ?」

「ん、あぁ、しばらくここを進むと石碑があるらしくてよ。その石碑まで行って異変がないかを確かめるのが仕事だな」

「石碑、禁足地のやつだろうか。……それに、異変、異変とは何を指すんだ?」

「それがなぁ、詳細不明なんだわ。報告内容は異変があったかどうかと、そこで出会った魔物の素材を一つだけなんだよなぁ……」

「よくそれで依頼を受ける気になったな」

「指名の依頼ってやつで、店長から直々に頼まれたから断らなかったんだよ……」

「という事は結構著名なのか?」


 そのユメルの言葉にアルフレムは恥ずかしそうに頬を掻きながら笑った。


「いやいや、俺なんて下っ端の下っ端よ。ただちょっと長くやってるから顔が広いだけ」


 その言葉にガイアスは喉を鳴らし、剣の柄に手を置きながら返答をする。


「長く続けられるという事はそれだけで得難い人材という事だ。それに、探求者として分不相応な事はしないだけの身の丈をわかっているということでもある」

「あんたみたいな竜人の戦士に褒められるって言うのは嬉しいものだな」


  そうして雑談をしながら、奥へ奥へと全員が進んでいく。

 森が深くなるにつれ暗さもまた深まっていく。

 夕暮れ時のような暗さになるまで、30分もかからなかった。

 時折、鳥の鳴き声に混ざり、なにかの獣の鳴き声が聞こえる。それが聞こえる度、一度は身を落とし、周辺に視線を配るがその声の主が現れることがなかった。

 そうして暫く歩くと、夜のような暗さになる森の境目に2mほどの大きさの石碑が置かれている場所にたどり着く。

 アルフレムはそれに手を触れ、読もうとするが、掠れた文字の上、見たことのないその言葉に眉をひそめるのみしかできない。


「これってなんて書いてあんだ?」


 その問いにユメルが顎に手をあて思い出すように答える。


「たしか、『この先に立ち入る者は災厄を招くだろう。決して立ち入ることなかれ、後世にこれが残ることを願う』だったかな」

「それ、探求者からすれば裸体の美女を前に……すまん」ガイアスから無言の圧力を感じ、アルフレムは失言を謝罪する。


 そんな様子にユメルは、気にしていないと口にすると辺りを捜索し始めた。


「モヒート、ここら辺か? 」

「うん、この辺りで拾ったんだ」


 その言葉にアルフレムの目の色が変わるとしゃがみながらなにかの痕跡を探し始める。

 そして、彼は目を細めると、少し凹凸がある地面の腐葉土を掘り始める。

  それを見たユメルが首をこてんと傾げながら近づいてきた。


「どうした?」

「いや。ここ、変な凹凸なんだわ」

「変?」モヒートもまた近づきながらたずねる。

「腐葉土は、均等に積もるもんだ。地面の凹凸が出来るとすれば、岩、亀裂、木の根、あとは、木の枝とかなんだが、これを見てみろ。木の幹のような大きさの円柱形の何かが木に関係なく横たわってるだろ」


 それを聞いたユメルはアルフレムを尊敬するような眼差しで見、うなづくと共に掘り始める。


「さすが、熟練の探求者だ」

「こんなの、探求者なら出来て当たり前だ」


  そして、掘り起こすと土の下に円柱状の鉄の塊が転がっていた。

 それを見たアルフレムは口に手を当てながら考え込む。


「鉄の円柱? ここの、接続部のような部分はなんだ」

「あ、これ背中だね。ここは電源プラグを差す穴だと思う。多分これ反対向きにすると、ドアみたいな入り口か、それか、ガラスがあると思う」


 そう説明しながら、モヒートが地面に枝で絵を描いていく。その絵を見ながらアルフレムがうんうんと唸り始めた。


「嬢ちゃんすげえな、これなんだか分かるのか?」

「うん。文献で見たことあるんだ。たしかこれ、シリンダーか、試験管? みたいな名前だったと思う。たしか、生物がホルマリンとかで保存されてるのを確認されたって書いてあったかな」

「生き物を保存する容器か。これまだ入ってたりしねえよな」

「……あるかも」


 そんな話をしていると、獣の鳴き声が近くで聞こえる。

 全員が武器を抜きはなち辺りを伺うと、じっと禁足地からこちらを伺う一匹の猪が見えた。

  それを見たユメルは拳銃をソレに向けながらふとつぶやく。


「動物……ではないな。ソレにしては大きすぎる。鋭どすぎる牙、それに鉄のような剛毛、魔物か。」

「ご名答、あれはフォレストボア……いや、デッドフォレストボアだ。屍獣、アンデットだ」


 そうアルフレムが返答すると、彼は腰の皮袋から紙切れを数枚取り出した。

 それが合図だったように、デッドフォレストボアがその牙を一同に突き刺すべく突撃をしてくる。

 ユメルが横合いに避けながら拳銃を連発する、その銃弾は違わず全てデッドフォレストボアの胴に突き刺さる!

  だが、その攻撃は動物ならば、怯むだろうが、魔物、ましてやアンデットには軽症にも及ばないらしい。

 一切怯む事なく、ユメルに向かいカーブを描きながら向かってきた。


「ち、怯むこともないか!!」

「アンデットに物理的攻撃にあまり効果はないぞ! あいつらは身体は器にすぎねえ。効果的なのは、魔法、あるいは銀の武器だ!」


  アルフレムはそう答えるとユメルの前に立ち、その手に持った紙切れを破り捨てる。

 すると、その紙からランタンの火のような明るさの白い炎が浮かび上がると、辺りを照らす。

 その光はユメル達にはなんの影響も及ぼさなかったが、屍獣たる猪はまるでそれが地獄の業火であるかのような反応を示し、その火の前にうめき声を上げながら立ち止まった。

 デッドフォレストボアは皮膚を爛れさせながら後ろに下がっていく。

 そして、そんな隙を見逃す探求者、そして、竜戦士はこの場には居なかった。

 アルフレムが銀の輝きを持った投げナイフを胸から取り出した。それを、デッドフォレストボアの足に投げ、突き刺さるとまるでそれが焼けた鉄のようにその足から煙を放ち、その場にたたらを踏む。

 そして立ち止まったデッドフォレストボアに向かい、飛翔をし、上空を取ったガイアスが急降下をする。

 寸分たがわず、ガイアスがデッドフォレストボアの首にその剣を凪ぐと、一刀両断の後にその首と胴が分かたれる。

 だが、彼はアンデットがそれで止まらぬ事を理解している。横に着地をし、剣をさらに横に薙ぎ払った。

 すると、その足が全て切り裂かれ、屍獣は何も出来ずにその場でバラバラに解体された。


「流石竜人だなぁ、俺の攻撃がカスみてえだ」

「何を言う。アルフレム殿がユメルへの攻撃を防いでくれ隙を作ってくれなければこうもうまくはいかなかったさ。……それに、何もできない状態だが、死んで居ない」


 そのガイアスの言葉にモヒートが驚きの声を上げた。


「その状態で!?」

「あぁ、アンデットを完全に殺すにゃ、火で灰にするか、聖水で浄化するか、後は、この白い炎で焼くしかねえ」


 そう話したアルフレムが屍獣に近寄ると、手にある一枚の紙切れをその身体に破り捨てる。

 すると、脂に火をつけたようにその身体が燃え上がった。

  その様子を見て居たユメルが興味津々といった様子でアルフレムに尋ねる。


「それはなんなんだ?」

「ん? あぁ、術札じゅつふって奴だ、紙切れに魔力と魔法が込められていて、破るとその札に内包された魔法が発動すんだ」

「便利なものだなぁ!」

「その代わりちょっと高えよ。具体的に言うとこれ一枚で宿屋に20日くらい泊まれる。」

「……、大丈夫なのか、二枚も使って」


 ユメルの心配したような言葉にアルフレムは笑いを返すと、問題ない、と手を横に振った。


「流石に赤字にはならんくらいの物しか使わんさ。探求者は高級取りだが、こう言うアイテムに金かけねえと生きていけないからな」

「そうか。それで、アンデットの素材ってどう剥ぎ取るんだ?」

「燃やしたなら灰が素材になるし、今回のこの炎だと、骨が残るからそれの牙がいい素材になる。……興味あんのか? 探求者に」

「あぁ! この祭りが終わったら、ここを出て探求者になろうと思ってる!」

「へぇ、嬢ちゃんの腕なら――」その言葉を遮るようにモヒートが悲鳴のような声を上げた。

「聞いてない!! 嘘でしょ? ユメル? ……」


 そのモヒートの言葉に、しまったと、ユメルは苦虫を噛んだような表情を浮かべるのだった。

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