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貴女の為に英雄になる (旧・ココから始まる英雄譚)  作者: るるいえ
二章 城塞都市パリスタン
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十話 はじめての依頼5

「貿易都市ランスの守護者シャンナの魔神の雫を得た貴女にうちの領主が会いたいってさ」


 アナスタシアはそういうと着いてこいと言うのか、親指で背後を指しユメルを見つめていた。

 しかし、ユメルは伺うように彼女を見て動こうとはしない。剣を納めたのが冗談で、この二人をまだ殺すかもしれない、そう思ったのだ。

 そんなユメルの様子を見たアナスタシアは飽きれるように笑うと肩掛けのベルトを外し、クレイモアを鞘ごとユメルに投げる。

 ――ゴンッ、見た目に違わず重厚な音を立てて地面に転がったクレイモアを見て、ユメルは怪訝な顔をしながらアナスタシアの顔を見る。


「その二人に手を出す気は無いよ。少なくとも私はね。

 第一、ボブゴブリンを倒す理由はないし。次に、危険なオークだったら私が剣構えた時点でそんなに怯えたりしないっしょ。

 まぁ、後はオーク如き襲ってくるなら殺すだけだし」

「……わかった」


 背後をユメルが伺うと、たしかにアイシャは怯えたようにサインの背後に隠れていた。

 ユメルは溜息を吐きながら、クレイモアを拾おうと鞘を両手で持つが、20kgを超えるそれをとてもではないが彼女は持ち上げられなかった。

 そんなユメルをクスクスと笑いながらアナスタシアは片手でそれを持ち上げるとまた、背中に鞘を縛着する。

 ユメルも大剣術はバーナードが得意としているので、見たことはあるが彼女の場合は技術もそうだが、腕力が人並み外れている。


「全く、こちとら昨日からあんたを探してんのに見つからないし。朝にまた組合行ったら飲んだくれのアルフレムしかいないし。市場行ったら外に向かったって言われるし。追いかけてみたらなんかオークいるし、なんなのこれ?」


 不機嫌そうにアナスタシアはユメルに愚痴をぶつける。

 その愚痴にユメルは知るか、と思いつつ苦笑いを浮かべた。


「着いて行くのは構わないのだが、彼らと契約を済ませても構わないか?」

「あー、食糧がどうたらこうたらだっけ」


 一同がアナスタシアを警戒して口を出さない中、面倒くさげにアナスタシアはミーネを指差した。


「あんた。代わりに持って行って。お金はほら、これくらいあれば足りるでしょ」


 困惑しているミーネに金貨を一枚投げ渡す。それは一枚で500ジルもの価値があるもので決して安い硬貨ではない。

 受け取ったミーネもオロオロと硬貨とアナスタシアを交互に見ていたがアナスタシアはそんな彼女に手を横に降ると視線を外し口にする。


「手間賃入ってるから釣りとかいいから貰っといて。その代わりコイツはそのまま連れてくよ」

「……済まない、ミーネ殿、頼んだ」


 拒否権はない事を察したユメルはペコリと頭を下げる。そんなユメルにミーネは心配した顔で声をかけた。


「ユメルちゃん。後できっと治療院に来てね。お礼まだちゃんと言えてないから」

「あぁ、これが終わったら一度顔を出すよ」


 要件はもういい? そう尋ねたアナスタシアの言葉にユメルは頷き返事をする。

 領主、そんな人物が自分を呼ぶ要件は大体検討が付いていた。

 ――きっと、シャンナの力目当てだろう、と。


✳︎✳︎


 領主の城は豪華絢爛としか言いあらわしようがなかった。白亜の大理石に引かれた赤い絨毯。通路に飾られている美術品の数々。スメラギの実家も豪華ではあったがこんなにも高価そうな物品を見たことはユメルには無かった。

 雰囲気に気圧され、ユメルが無口になる中、前を歩くアナスタシアは見慣れた様子でスタスタと進んで行く。

 5階の観音開きの檜の扉にたどり着くとアナスタシアは三回ノックをし、扉の前で声で声をかける。


「近衛第3小隊副隊長アナスタシア。ユメル氏を連れて参りました」


 中から中年の男性の声で一言、どうぞ、とだけ聞こえるとアナスタシアは扉を開きユメルを招き入れる。

 そこは執務室のようだった。壁には小道具や本が並べられた棚が立ち並んでおり、奥には大きな長机に一人の身なりがいい男性が座っている。その横には白雪の髪と鹿のようなの角が特徴的な魔神族の男性が佇んでいた。

 アナスタシアが扉を閉めた音が聞こえる。それと同時に長机に座った男性がユメルに声を掛けた。


「よく来てくれたね。領主アレイスター・クロウリーだ。右にいるのはアーサー。ここの都市国家の将軍兼守り神をしている。」

「お初にお目にかかります。アーサーです。そんな気張らないで下さい、ユメルさん」


 ――この状態で緊張するなというのが無理だろう。

 そう、心の中で愚痴を零しながら彼女もまた、二人に挨拶を返す。若干声が震えてしまうのは仕方のない事だろう。


「……それで、私を探していたと仰いましたが」


 ユメルのその言葉にアレイスターが頷くとふと立ち上がり、ユメルに近づいて来た。その手には一枚の紙が握られている。


「パリスタンはランスの市民を受け入れよう。

 騎士も護衛に出すし、ある程度、生活の保護もするつもりだ。

 ――しかし、君も見たとおり、既に壁の中は満員で受け入れることはできない。そのため君たちの受け入れは、西の壁の外となる」


 壁の外、それは夜な夜な魔物が入り込めば大勢が死んでしまうし、野盗の類からも守りのない安眠とは程遠い場所だ。

 ただ、彼の言うことは最もであるとも言えた。自国の民でもなく、難民なのだ。受け入れれば治安問題もある上、食糧問題、そして、文化の違いによる摩擦もある。それを受け入れるというだけありがたい話なのだ。


「……ありがとうございます」

「ただ、この問題も君が協力してくれるなら壁の建設も考えている」


 ユメルの肩に彼は手を置くとその顔をマジマジと見てきた。スメラギと違い汚さも併せ持つ大人の目だった。


「私はね。私に益があるなら手厚く持て成す主義だ。君がそうであるということ証明して欲しい。

 君が騎士になってくれるのなら、手厚くランスを保護する。

 が、その前に、君にその価値が有るのだと私に証明して欲しい。アーサーは特別な力を君が受け継いだというが、それを見せて欲しいんだ」


 そう語ると彼は手に持っていた一枚の紙切れをユメルに手渡した。それには目を見張る内容が書いていた。


「近くの森に亜竜ワイバーンの番が移り住んだ。このままでは卵が羽化した際食糧を求めここを襲う可能性がある。君にこれを退治してもらいたい」


 亜竜、ワイバーン。それは竜種として知られる最もメジャーな、そして、強力無比な魔物の一種だった。一体で村を滅ぼすだけの力があるそれを番、二匹同時に倒せというのだ。

 ユメルはそこに書かれた内容に生唾を飲み込み、ただ呆然とするしかなかった。



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