五話 束の間の日常4
昼食を取ったのち、ユメル達は市場にある先ほど林檎を買った中年の男性にドライフルーツを種類は問わず、40㎏。加工肉店で干し肉を30㎏発注し、明日の朝までの受け取りの契約を済ませると馬の乗り西門から草原へと出ていった。
日の高さは後数時間で日没しようかという具合の時間だった。
アルフレムがいうには見分ける事ができればすぐ見つかる草だという。逆に似ている只の草があるため見分けられなければ回収できず、だからこそ、売ってもある程度のお金となるのだと語っていた。
馬をアルフレムが止めると団子のように丸い赤い綺麗な花が咲いた草むらが近くにあった。そして彼は馬から降りるとその近くまで歩き、ユメルを手招きする。
ユメルも馬から降りると、彼に近づき、彼が見ている花をじっと見つめる。
「この花が薬草なのか?」
「ん、丁度いい教材だなと思ってよ。この花畑にゃ、薬草とただの花が混ざってる。良く見てみろ、よく見てみれば区別つくからよ」
じっとユメルはその花を観察する。どの草も同じように見えるが、しいていえば、葉に生えている毛があるのがあったりないのが合ったり、葉がまっすぐ生えているものあれば、茎を抱くように丸まっているのもある。けれども、そのくらいの差しか彼女には見分けられなかった。
どうだ? とアルフレムが訪ねると、彼女は素直にその違いを口にする。
するとアルフレムはにっこりと笑いながら彼女の頭を撫でた。
「そう、まず、薬草になる方はこれは、アヘンケシって呼ばれるんだが主な特徴として、葉にまだらに毛が生えてたり、まったく毛が生えてない。その上、葉柄がなく、葉が茎を抱くように生えてるのが目立った特徴だな。そのほかに、あんまり葉に切れ込みがなくて浅く波打つのが多い。
逆にこっちの花はただのケシって言われるな。ほら葉に毛が生えててまっすぐしてるだろ」
「ほぉ、知らないとわからない特徴だ」
「ま、全部が全部そうって言えないのがこいつが見分けられないのを助長させてんだけどよ。ただ、わからないなら採取しない。これが一番だな。他の薬草にもいえることだが、薬だとおもったら毒草でしたってのもある」
「わかりました、師匠」
「で、なんで草の話なんてするかっていうと、未知を探索する俺はこういう草も見分けられなきゃいけないんだわ。例えば、新種の草が画期的な妙薬になる場合もある。だから今回は触りだが、しっかり本読んで勉強しろよ。で、次に取り方なんだが……」
アルフレムは話ながら草を土から掘り返し、根を残す形で数本摘むと、布を広げその上に水を垂らした上で、下の土の部分を包むように薬草を束にした。
事も無げに行っているが、茎を傷つけないように細心の注意を使わなければ、途中で折ってしまったりして薬草はダメになってしまうだろう。
それを見たユメルも、土を掘り返し、草を摘もうとするが、草を引き抜いた途端にしたの土が全て落ちてしまい、根がまだらにしか残らない状態になってしまった。
「む……」
「ま、今回はそれでも平気だ。長距離運ぶわけじゃないからな。ただ、草を土と共に運ぶ場合は素直に茎の下から掘り返すんじゃなくて、円を描くように回りから掘っていくのがコツだ。
それさえわかれば簡単にできるぞ」
意外と簡単そうに見える作業でも難しいのだな、という感想を抱きながらユメルも草を布に来るんで持つ。
今日のレクチャーは終わり、と立ち上がる彼についていきながら、彼女は雛が餌を求めるように、矢継ぎ早に質問をする。
「そういえば、師匠。魔法ってどう使うんだ? なんか変な文言唱えて使うようなイメージしかないのだが。真似しても魔法使えないのはなんでなんだ?」
「ん、ああ」馬に乗ったアルフレムは片手でユメルを引き上げながら答える「魔法っていうのは特殊でなぁ。本来なら別にあんな文言いらねえんだわ」
「何、ではあれはカッコいいから言っているとかそんな理由なのか?」
「違う違う」アルフレムは笑いながら馬を進ませる「ま、俺も専門家じゃねえからうまく教えられねえけど。魔法は自らの中にある『マナ』あるいは『魔力』っていう生命力を使って発動させんだ。そこまでは餓鬼でもわかることなんだけどよ。
例えば、俺が前使った『ディック』穴を掘るっていう意味の言葉なんだが、文言、いわゆる呪文はその『マナ』を正しい動きをさせるために使うんだ。だから、究極文言なんてなんでもいい。『穴を掘れ』でも『穴を穿て』でもいいんだが、大事なのはその言葉に伴うイメージだ。
マナを放出し、そのマナを対象のマナと干渉させ、魔法は発動する。絶対に必要なのはその『穴が開く』という現象を自分が絶対に信じる事。それに伴う要素を全て、どうなるかまで創造すること。文言によってイメージが固まれば魔法は発動するし、無意識でも疑ってしまえば魔法は発動しない。
まぁ、あとは自分の魔力がうまく扱えれば正確にイメージ通りになるし、扱えなきゃ、威力が落ちたり、反対に効果以上にやってしまったり、とかそんなんだなぁ」
「う、む? つまりは、魔法は妄想を生み出す力なのか?」
「ああ、近い近い。イメージの仕方なんだが、自分の魔力が何処から出て、どうやって作用して、何を作りだすか、それを正確にイメージし、魔法を使うんだ。
名称とかつけてる理由は自分がその魔法を認識しやすくするためだな。たとえば、『アースボール』って言って、火の槍とか想像するの難しいだろ」
「おお、なんとなく理解できてきたぞ。じゃあ、魔法っていうのは想像する限り無限大なんだな!」
「ま、そうだけど。身の丈以上のことはできないし、何かの物質に作用させる場合はその物質を正確に理解する必要がある。一日二日でできる技術じゃないのは確かだなぁ。
なんだ、魔法に興味あるのか?」
「うむ、いろいろな事を知りたい」
「なら、魔法についてはミーネに聞くのが一番だな、持ってく次いでに聞いてみろよ」
うん、と素直に返事しながら、ユメルはペンダントを握りしめる。蒼い炎が揺らめく魔人の雫を眺めながら、あの日のシャンナの事を思い出していた。
ぱから、ぱから、とゆっくりと馬は歩みを進める。走らせることもできるだろうが、ユメルの質問を答えるためにアルフレムが気を使っていることは彼女にもわかった。
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スメラギ達と合流をするため、城門に二人は向かったが彼女らの姿はなく既に桟橋は上がっていた。話が長引いているか、騎士と共に北進するか、いずれにしても、明日になれば恐らく『その日の気分はパンシエット』に来るか連絡をよこすだろうと結論がまとまり、二人はミーネの治療院へ足を移す。
既に日は落ちており昼間は活気があった市場も人は疎らだ。今日は暗夜であり、街道の脇に設置されている街灯が道を照らしていなければ数メートル先も見えなかっただろう。
この街灯もいつまでもついているわけでもなく、深夜零時を回ると消えてしまう。どうやら、光っているのは魔法によって灯された光らしく、街灯士といわれる者たちが暗くなる前に回って灯しているとアルフレムがユメルに語った。
西門近くの治療院にたどり着くと、また昼間のように馬を括り付け、扉をノックする。すると中からミーネの声が聞こえ、扉が開けられた。
「悪い、遅くなっちまって」アルフレムが謝罪をすると薬草を彼女に手渡す。
「あ、多い。ちょっとまって、余分な分のお金払うから」そう言って彼女が奥に消えそうになるのをアルフレムが、いい、いい、と呼び止める。
「遅くなっちまったし、迷惑料だとおもってくれや。じゃ、俺らは宿これから探すからよ」
「あ、まだ決まってなかったんだ。じゃあ、二人とも、手狭でよければ家に泊まっていきなよ。これでお相子、いい?」
有無を言わさぬミーネの雰囲気に踵を返そうとしていたアルフレムが困った顔をすると、ユメルを見る。
ユメルは彼に向かって、うなづきを返すとご厚意に甘えよう、と口にした。ユメルは何処からどう見てもアルフレムに好意を持っているミーネの味方らしかった。
その返答に仕方ないな、といった様子を隠さず、彼は頭を掻くとミーネに向き直る。
「それじゃあ、悪いけど、お邪魔させてもらうわ」
「いいのいいの。それくらいさせて」アルフレムが中に入るのを見送りながらミーネはユメルを見ると、ユメルは彼女に親指を立てている。その意図がわかった彼女は、ウィンクをユメルに返した。
「頑張ってください。ミーネさん」
そう返しながら入ってくるユメルをくすくすと、笑いながらミーネは中に招き入れる。
――カランカラン。扉が閉まるこの音を良い音だな、とユメルは感じながら暖炉に火がともった暖かい部屋へと入った。
治療院の中はそこらかしこから子供のわめき声が聞こえ、数人の子供はアルフレムを知っているのか既に彼に駆け寄って足元で騒いでいる。
そんな子供らを、元気だったか、餓鬼共、といいながら抱き上げる彼を見て、ミーネもユメルもつい頬が緩んだ。
「丁度晩御飯作ったところだったの。良かったら一緒に食べましょう」
「お、助かるわ」きゃっきゃと喚く子供たちを俵のように抱えながら彼はスタスタと通路の奥に入っていく。
「自分の子供みたいだな」そうユメルがつい笑いながら口にするとミーネも頷きながら朗らかに笑った。
「私も、小さなころから良くしてもらってるからきっと、あの人は私も同じように見えてるのよね」
「それは難題だな。私は応援しているぞ」
「ありがと、ユメルさんもお腹減ってるでしょ、私の料理が口に合うかわからないけれど、よければどうぞ」
「助かる。何料理に貴賤はない。美味いものは美味い。きっとミーネ殿の料理も美味いだろう」
ユメルとミーネはそんな話をしながら、奥の通路に消えていく。
この時感じた幸せな空気に、ユメルは心を癒されるとともに、ジクジクとした胸の痛みを感じていた。きっとこの痛みは治ることがない傷だろうことは子供ながらに彼女は理解している。だから、努めて普通に、そんな様子を少しも出さず彼女はリビングに向かったのだった。




