二話 束の間の日常
組合とは、都市国家群がその者たちを把握、活用するために作られたシステムだ。別段、たとえば『探究者』になりたいからといって探究者組合に参加する必要はない。しかし、組合に参加することにより、それが身分の証明ともなり、また、探究者に依頼したい依頼は組合に持ち込まれるため、組合に所属するものは多い。組合に所属すればある小遣いを稼ぐために何か仕事を探す必要もなく、その技能を求めた依頼が舞い込むからだ。また、そのほかにも組合員となれるということは一定の技能以上は保有している証ともなり、いわば、プロの『探究者』と言えるものは組合員を指す。
しかしながら、フリーランスと呼ばれる探究者が認められていないわけでもない。中にはフリーランスでありながら古代遺跡の調査を完了させているものや、英雄と呼ばれる実績を持つ者もいる。
えてしていえることは、自分ひとりで何とかできるだけの資金、実力、人脈を持っているものはフリーランスであっても活動できるが、そうでないものは『組合員』となった方が恩恵は強い。それは『探究者組合』に限らず、様々な組合に言えることだ。
そして『その日の気分はパンシエット』という店も『探究者組合』に当たる。
この店は『城塞都市パリスタン』の発祥の組合であり、この地方に広く知られていた。
アルフレムは勝手知った我が家に入る感覚で店の扉を開ける。一階部分は喫茶店のような様相を見せており、実際、軽食あるいは飲み物が飲めるように店の中には木造りの丸テープルや椅子がところどころに置かれている。店の奥のカウンターではボブカットの茶毛を持つ綺麗な女性と、白髪が似合う老紳士が佇んでいる。
意外なことにこの店のマスターは老人ではなく、隣の女性なのだ。初めて訪れたものはだいたい間違える。
アルフレムは今戻りました、と口にしながら手を挙げ、女性に近づいていく。
「ずいぶんかかったね。何か問題が?」
「ええ、今回の調査内容なんですが、ここで話せない程立て込んだ内容でして」そうアルフレムが返しながら、後ろに立つ三人に視線を送る。
その様子を見た女性はただ事ではないと察し、老人に一言声をかけると全員をカウンターの裏にある部屋に通す。
そこは密談をするには適した場所だった、重厚な石造りの壁が四方にあり、真ん中には長机に椅子が六脚ほど置かれているだけだ。窓もなく、盗み聞きされる心配もない。
女性は、アルフレム達を椅子に座らせると促すように、何があったの、と口にする。
「話すと長いのですが。結論から話しますと、貿易都市ランスは強大な魔物の出現によって滅びました」
「……詳細は?」息をのむように女性は顔をこわばらせると、アルフレムの言葉に耳を傾ける。
「スメル樹海の奥深く、禁足地と呼ばれていた場所に『シュペルミル』と呼ばれた魔物が封印されていました。その魔物は村人一人の体を乗っ取り、覚醒したのを目撃。
また、その際、この町の守り神『シャンナ』が討伐に当たりましたが、守り神は魔物に打ち取られ、死亡。しかしながら、魔物がこちらを追ってこなかったことから、なんらかの要因で魔物が動けないと考えられます」
「そう、依頼者にそう報告しておきます。
多分、国や、依頼者にまた呼び出されるとおもうけど、快く説明してくれると嬉しいな」
「それはもちろん」
そうしてひと段落話がついたところで女性は残りの者たちの顔を眺める。
「それで、そこにいる方々は『貿易都市ランス』の人かしら」
「――ああ、みんな、この人はこの店のマスター、『パンシエット』さん。それで、ここの、3人は貿易都市の人間で、領主のスメラギ・アヤカ、衛兵団の団長の令嬢のユメル・ユーラシカ、その護衛のガイアスです」アルフレムは全員に説明するように互いの名前と役職を話す。
「領主、それに令嬢って結構な人をお連れしたのね」
苦笑いをするようにパンシエットが表情を崩すと、ユメルは一度立ち上がり、綺麗な礼式でパンシエットに挨拶をする。
そして普段はしない口調でパンシエットに話しかけた。
「お初にお目にかかります。お紹介に上がりましたユメル・ユーラシカです。この度はこの組合にご依頼をしたく、ご同行させていただきました。
依頼内容は現在こちらに南進しているランスの領民の護衛依頼です。また、その際こちらから食料を輸送していただきたく」
「依頼料は? 相場は知ってる?」
アルフレムからユメルは依頼料の相場を説明されていた。主に新人に依頼する場合は一人頭1500ジル、またある程度のベテランに依頼する場合、5000ジルが必要となる。
一日宿に泊まるのに必要な金銭がおおよそ80ジル前後と考えると、アルフレムの言った高給取りという話が良くわかる。様々な状況に対し、適切な行動を行える上、魔物を少数で打破できる人間というのはこの世の中、非常に希少価値が高い。
ユメルはバーナードから10,000ジルを預かっており、その中でやり繰りしなければならない。そのため、今回の場合は新人を3人、残りは糧食に充てる予定だった。
「はい。アルフレム様からお聞きしております。今回の依頼は一人1,500ジル。その上で三人までの依頼とさせてください。また、糧食につきましてはこちらが明日までに用意いたします」
「ん。確かに。じゃあ店先にあとで張り出しておくわね。依頼者はユメル・ユーラシカで大丈夫?」
「ええ、それでお願いします」
その後、パンシエットとユメルは詳細な内容を詰める。パンシエットが不備のない事を確認すると、依頼書の作成は終わった。
そこで、パンシエットは思い出したように手を打つと、一旦部屋の外に消える。次に戻ってきた彼女の手元には別の依頼書と共に、札束が一つ握られていた。
その二つをアルフレムの前に置くと確認するように内容を言う。
「樹海探索依頼。依頼者:シャネル 達成報酬10,000ジル。確認して」
「はいよ」アルフレムは手に取ると紙の数を数え頷く「確かに」
それを横で見ていたユメルは驚くように声を上げる。
「1万ジル? やっぱりアルフレム殿は結構な有名人なんじゃないか?」
「だから、俺は……」その言葉を遮るようにパンシエットは微笑みながら告げる
「この組合の上から数えたほうが早いくらいの実力者よ、剣も魔法も技術も特化した人はいるけど、全部が高水準で行えるのは彼くらいね」
その話にガイアスは納得したように頷いていたが、ユメルとスメラギは驚きが隠せないのか目を見開いたまま彼を見ていた。
その視線に恥ずかしそうに彼は頭を掻き、その話をあまりしたくないのか打ち切るように話題を変える。
「はい、ここでの仕事は以上! じゃあ次行こうか、次」
彼がユメル達を追い払うように部屋から出す、そして彼が出ていく直前、それを微笑まし気に見ていたパンシエットが彼に声をかける。
「アルフレム。足、ちゃんとミーネちゃんに見せに行くのよ。それと、もういい年なんだからあんまり無理しない。いいわね?」
「あー。あいよ。マスター」
いたずらがバレた子供の様にアルフレムも頭を掻きながら、部屋から出ていった。




