第九話 ココから始まる物語2
剣は倒れた悪魔の胴体に打ち付けられる。
おそらく、シュペルミルが入った状態ならばこれは有効打にはならなかっただろうが、今の黒影は回避行動すら見せずに殴打された。
剣の根元から嫌な音が一瞬聞こえる、ガイアスはきっとヒビが入ったであろう事を認識しながら怯んだ悪魔に馬乗りになると、衝撃で開いた口に左手を差し込む!
悪魔は必死にもがこうとするが、両腕を足で抑えられた上、口の中に入れた手が自由を許さない。
ガイアスは剣を一度横に置き、頭のヘルムを投げ捨てると、右手で剣を回収し、その口で剣の鞘を抜き捨てる。
一層抵抗が強まるがそれを翼も使い押さえつけると、抜き身の剣を黒影の口に突き刺した!
その瞬間、左手を口からどけ、柄を両手で持つと更に力強く突き入れていく。
全身の力を込めた突き刺し、それに口の中という柔らかな場所に突き刺された黒影はもがきつづけるが、ごぼごぼ、と口から青い液を吐き出していく。
――ザクッ! 剣が地面にとうとう突き刺さる音が聞こえる。硬い皮を超え、地面に貫通したのだ。
半ば程まで剣をそのままガイアスは突き刺さすと、剣を手放した。徐々に抵抗が弱まる黒影を睥睨しながら彼は近くに落ちていた鞘を拾いあげ、先端で首元を殴打していく。
数十回、殴っただろうか、とうとう黒影が、ピクリとした痙攣だけ残し、動きを止めた。
「か、はぁ、はぁ……」
少し切れた息をガイアスは漏らす、戦闘中は相手に呼吸を悟られないため、たとえ息苦しさを覚えたとしても、通常通り息をする。
しかし、戦闘が一時終わった彼は、2分の全力の戦闘という疲れを今感じていた。
ふらり、と姿勢を崩しながらをガイアスは立ち上がると、悪魔の顔を全力で蹴る。そして反応がない事を確かめ、ユメルのもとへと歩みを進めた。
「ユメル、ユメル!!」
「あ、あぁ……?」呆けたようにユメルが返答する
ガイアスはそんなユメルの肩を叩くと顔近づけ、諭すように話す。
「お前はスメラギ殿と共に館で待つのだ。いいか」
「ま、待ってくれガイアス! 私も……」言いかけたユメルの言葉を、ガイアスは心を鬼にして被せて話す
「遊びじゃないんだ! 頼むから言うことを聞いてくれ!」
そのガイアスの言葉にユメルは唇を噛み締め、拳を握る。その目には涙が溜まっていた。
そんな彼女をスメラギが背後から抱きしめた。
「駄目、ユメル」
「……うっ、うう」
「私達じゃ、足手まといになるだけ。私、私も、何かしたいのよ、けど、何、何もできないって、わかる。だから、邪魔だけは、駄目」
努めていつも通りに話そうとするスメラギも泣いている事にユメルは気がつく。
――自分もそう、変わらない、何もできない。
あまりの無力さにユメルは拳銃を地面に落とした。
そんなユメルを見ていられないのか、ガイアスは身体を反転させると投げ捨てたヘルムを付け直し、剣を調達するため、一度館に戻った。
アルフレムとシャンナが館に到達したのは、丁度ガイアスが館からもどってからだった。
ユメルはただ立ち竦みながら呆けた頭で三人の会話をただただ聞いていた。
――何が……。黒い種から産まれた悪魔がモヒートを……。――シュペルミル!? すぐ追いかけないと……。――アルフレム殿、一緒に……。――それじゃあ、私はこの子達を……。
頼む、そうガイアスがシャンナに告げると、アルフレムと共に何処かへ走り出す。
追いかける気力すら、ユメルには起きなかった。
――黒い種から産まれた悪魔? じゃあ、今回の事は全部全部私のせいじゃないか! 何もできない私の!!
「ユメル」いつの間にかユメルの目の前に立っていたシャンナは叱るわけでもなく優しげに微笑んでいた。
「……あ」
「スメラギ、ユメル。どうしたい?」
「……?」
「私は、私はよ。何もできないかもしれない。でも、きっとここで待っていたら私は一生貴女達は後悔し続けると思うの。
ガイアスの言ってることは正しいわ。貴女達は邪魔にしかならないかもしれない。
けどね、感情に正直な事ってそんなに悪いことかしら。お利口に生きる事が、いい事なのかしら。
私はね、後悔して欲しくない。ただ立ち止まって、あの時行けばよかったなんて、そんな事思って欲しくない」
すっ、とシャンナの言葉が身体に染み渡る。
二人はその言葉に、行きたい、という感情が強くなった。
だが、何もできない事はさっきわかったばかりだ。板挟みの感情にどちらともなく声を漏らす。
「けど!」
「私が絶対に二人は守るわ。それに、きっと貴女達は行くべきだ思うの。私が責任は持つ。だから、どうしたい?」
「……、行きたい、行きたいさ!」
ユメルがそう発した言葉にシャンナは笑みを漏らした。
「貴女達が大きくなった時、困ってる人が居たらきっと同じ事をしてあげてね。何もわからず、全部が終わるって、それは辛いことだから」




