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デス・カラオケ

作者: ぺんぺん草

 時は世紀末!


 長きに渡る世界大戦の末に起きた核カタストロフィーを経て、この世界から文明、法、秩序と言った人類の英知は消え失せた。代わって腕力のみが人間を支配する新しい時代が到来したのである。


暴力が支配するこの時代において、既存の政治体制など役に立たない。核カタストロフィーから復興したNEW日本もまた、新しい恐怖の秩序のよって支配されていくのである。


 議会制民主主義を柱とする日本の中央集権体制は、各地方で蜂起した15諸王達によって有名無実化してしまった。中央政府はこの反乱を押さえ込めず、日本列島は15諸王達によって分割統治されることになっていった。



 中でも最も凶悪な王が東京王・渋谷龍騎。通称「サンバイザー2世」である。彼は身長195センチメートル体重120キログラムという巨躯を誇り、赤色の長髪は敵対者の返り血によって染められたと噂されている。


 筋骨隆々な彼は、4000年の歴史を誇るという暗黒拳法の使い手であり、配下の暴走族「暗黒軍団」を率いて東京を支配している。このサンバイザー2世の暴政に都民は大いに苦しめられていた!しかしサンバイザー2世は徹底した粛清と弾圧によって、その地位を確固たるものとし、彼の非道なる政権は盤石なものとなっていた。


 そして今日もまた、夜の帳が下りると暴帝による恐怖の宴が始まのである……。



○○○


 午後10時。旧国会議事堂前には、舞台が建設されその周囲には大勢の人だかりができていた。これから謀反人達の公開処刑が行われるのである。


 屈強な男達に守られ、美女をはべらしながら王座に座るサンバイザー2世は、この舞台を見下ろし、反乱者に対する公開処刑を楽しむつもりだ。だがその処刑方法は一風、変わっていた。


 例えば、今日舞台に挙げられる謀反人の数は4人としよう。しかし実際に処刑されるのは2人なのだ。どういうことかと言うと、謀反人は2人一組となって舞台の上で勝負することになる。そして負けた方が処刑されるのである。しかし問題は勝負の中身である。



「クズ達よ見届けよ!これからデス・カラオケの本番じゃああああ!」



 舞台上を仕切っているの東京王サンバイザー2世の手下である。彼はやたらテンションの高いモヒカン男であり、眼帯をつけて「いかにも世紀末」な風貌をしているがこの際気にしないで欲しい。この彼が公開処刑のMC役を務めている。



「はぁぁいっ!次なる挑戦者よ出でよ!カモン」



 するとスポットライトが舞台の傍にいた1人の囚人に当てられる。すると灰色の服に青ざめた顔をした男がとぼとぼと舞台に上がってきた。その足には鉄球のついた鎖で繋がれている。彼は舞台の中央に上がると自己紹介をはじめた。



「処刑者No.2。山田山太郎です。罪状はネットでサンバイザー様をウンコバイザーと書いてしまったことです」



 舞台を見下ろす東京王は、酒を飲みながら愉快そう鬼微笑む。



「ルールは分かっておるなNo.2。お前が先程のNo.1に勝ったならば許してやろう。両者の内、負けた方が我が悪魔拳法の奥義によって死ぬ!」


「ひぃぃ。恐ろしい……お慈悲をサンバイザー様……」



 ドラムロールの後、プロジェクションマッピングによって国会議事堂に文字が写しだされた。そこには『僕は北海道でタップダンスを踊る』と書かれている。これは懐メロだ。つまりこれから謀反人はカラオケをさせられるのである。



「来ました〜昭和42年のヒット曲。『俺達、北風&ブルース&鳩』の『僕は北海道でタップダンスを踊る』に決定だぜぇ!いけえ山田!」



 モヒカンMCが謀反人山田にマイクを向けるも、彼は戸惑うばかりだ。



「えええええ!その歌はあまり知らないんだけど」


「ラッキーでしたね。少しは知っておられるようで!」



 容赦なく流れてくるイントロとともに、モヒカン男は山田山太郎にマイクを渡した。



「さぁ!歌ってくださいなっ!」


「うわうわうわ……」



 山田は深呼吸をした。これからの歌に彼の命がかかっているのである。



「はぁっ。はぁっ。頑張れ俺……。絶対に音程を外すんじゃないぞ」



 山田はうる覚えの曲を必死に歌い上げた。



「僕と〜、君の〜。大事な〜ものは〜、ラーメン!」



 歌い終わると山田は必死の形相で国会議事堂を眺める。そこにカラオケの採点結果が映し出されるのである。機械が叩き出した得点は55点であった。残念ながら、直前に歌った謀反人No.1の出した75点には及ばなかったのだ。



「ひぃぃぃ!そんな馬鹿な。一生懸命ビブラート効かせたのに!」



 観衆から拍手が起きる。今から東京王による死刑が執行されるのを、彼らは楽しみにしているのだ。時代が故の狂気だ。サンバイザー2世は玉座から立ち上がり、指をポキポキと鳴らしながら舞台上に降りてきた。



「ククク。山田よ。死神は貴様を呼んでいるようだ」


「はわわわっ!サンバイザー様!待ってください。もう一度チャンスを!これは機械の判定がおかしいのです」



 サンバイザー2世は、彼の釈明など無視して、凄まじいスピードで死刑囚のデコに指を当てる。山田はキョトンとした表情だ。



「それでは次の勝負を楽しみに見届けよう」


 

 と言うとサンバイザー2世は踵を返し、玉座へと戻った。



「あれ……何も起きていない」



 しかし次の瞬間には山田の顔色が七色に変化する。



「うっぴょー!でろでろレーン!」



 とてつもなくみっともない声を発するや否な山田は倒れてしまう。モヒカンMCが脈を図るが既に死亡していた。サンバイザー2世が観衆に向けて技を解説する。



「これは暗黒拳法、レインボーフェイス」


「うおおお!サンバイザー様すげぇ!」



 観客達はサンバイザー2世の暗黒拳法に熱狂するのだ。こうして彼は謀反人を粛清しながら、都民達に己の力を見せつけるのである。



「はいはい。ゴミは片付けてくださいね〜。では次の挑戦者」



 モヒカンMCは死体を蹴飛ばしてゲームを続行した。次はNo.3とNo.4の戦いとなる。しかしNo.3が97点という驚異的なハイスコアを叩き出したことにより、デス・カラオケの決着は既に着いたような空気が漂った。だがNo.4にスポットライトが当てられると雰囲気は一変する。



 というのもNo.4は凄まじいガタイの男であった。おそらくサンバイザー2世に匹敵するほどの巨躯なのだ。サンバイザー2世はNo.4の姿を見ると、持っていたワイングラスを握りつぶしてしまった。



「まさか……アヤツは……」



 No.4は不遜な態度で自己紹介を始めた。



「処刑者No.4.俺の名は、千葉ベレー和夫だ。罪状は13年前にサンバイザー2世を負かしたことかな!」



 サンバイザー2世の顔が青ざめた。



「なに!千葉が!?奴は死んだはずでは……」



 舞台上にいるのは、東京王サンバイザー2世にとって宿敵とも言える相手だった。彼は共に暗黒拳法を学んだ同士なのだが、悪しき事に暗黒拳法を用いようとするサンバイザー2世とは違い、民衆のためにその力を使おうとしているのだ。



 側近達が東京王に尋ねる。



「奴を知っておられるのですか!?」


「ああ……。奴こそが暗黒拳法の正当なる使い手。私は後継者レースで奴に敗北した。確か奴は中国に向かい消息を絶ったと聞いていたのだが……」



 サンバイザー2世の体が震える。新時代が始まって以来無敵だった彼にとって、謀反人・千葉ははじめての強敵とも言えるのだ。彼の狙いは明白だ。No.3にカラオケ対決でわざと負けて、サンバイザー2世を舞台を呼び込み、そこで暴帝を倒すのだ。こうすれば都民を圧政から解放できるはずだ。メシア千葉、ここにあり!



「おのれ……千葉め。我が野望を阻むつもりか……」



 舞台上のモヒカンMCは戸惑いながらも進行を進めた。



「そ、それではNo.4の曲を……」



 国会議事堂に映し出された曲の名は童謡の「桃太郎」だった……。



「歌っていただきましょう!桃太郎!はいマイク」



 千葉は桃太郎を歌い上げた。だが驚きの歌声に聴衆、そしてサンバイザー2世も唸った。



「な……なんという美声。そして絶対に外さぬ音程。さすが千葉よ……スキがない」



 そして判定機械の出した点数は驚愕の100点満点。観客から大喝采が浴びせられた。しかしこれは千葉にとっては想定外すぎる事態であった。予定ではわざと負けるつもりだったのに、彼はついマジで歌ってしまったのである。しかも想定外の100点を叩き出してしまったことで千葉はどうしていいか分からなくなってしまった。



「いや、その。100点てマジ?ちょっと拍手喝采やめて。俺、別に熱唱しにきたわけでは……」



 どうにも体裁が悪くなってしまった彼は暗黒拳で鎖を叩き切ると、聴衆に手を振りながら東京の街へと消えてしまう。これに困ったのは97点を叩き出して絶対に救われたと思ってたNo.3だった。



「なんだアイツ!100点って。意義あり!これは判定がおかしいっ」



 しかし舞台上に降りてきたサンバイザー2世が彼を羽交い締めにする。



「腐った奴よ。貴様ごときが千葉の美声にかなうと思うのか。奴はカラオケも上手い」



 そして首に親指を当てるとNo.4は「おぽぽぽぽっぴぴー!」という声を上げて倒れてしまった……。



 こうしてメシア千葉は再び中国へと去り、サンバイザー2世は絶対的な王として東京に君臨し続けたのであった。というわけで真の救世主の到来が待たれる!(おわり)

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