そして少年は都市へと帰る①
勝利の狼煙が上げられた。
激しく息を乱したまま、僕はぼんやりと空を見上げていた。
背中が激しく痛み、身を動かせそうになかった。どうやら僕は戦いには向いていないらしい。
「生きている者はいるか?」
カッサーノが鋭い声を放った。僕は顔をしかめながら、何とか言葉を継いだ。
「ここにいます」
「分かっとるわ! お前以外だ」
「ここにいるわよ」
傍らでは胡坐をかいたアルバニアが膝の上で頬杖をついていた。カッサーノはそちらにも向いて、厳格な顔に怒りを滲ませた。
「知っとる! ブランド、お前もだぞ。それ以外のことを聞いているんだ!」
どうやら、カッサーノは冗談が通じない性質であるようだ。二人の姉弟がにやにや笑いを浮かべながら、そっと拳を打ち合わせていた。案外カッサーノに対して不満を持っていたのかもしれない。
「あの爺さん、おちょくると必ず反応するからいいわよねえ」
「律義な人だな」
なんてことを言っているわけである。この悪たれ二人組は放っておいて、僕はもう動かない熊の亡骸の近くに寄った。
目が見開かれている。とはいえ正常だった左目には剣が突き刺さっているし、復活した右目も何だかよく分からない黒い球体である。その艶やかな球体を見ていると、後ろから声を掛けられた。
「魔物になるとよくあるのよ。宝飾品として高く売れるわよ」
アルバニアだった。彼女は泥だらけの足で熊の体を小突くと、僕の頭をそっと撫でてくれた。
「御苦労だったわね」
「……いえ」
ただ、これ以上言葉は続けさせてもらえなかった。アルバニアは、少しだけ冷たい手で僕の口元を押さえ、耽美主義の精粋を具現化したような柔らかい笑みを浮かべた。
「やるべきことをやった、それまでよ」
「僕も役に立ったでしょうか?」
「あなたが役立たずだったら、この場にいる大半が役立たずでしょうね」
アルバニアが、しみじみとそう呟いた。
言っている間にも、カッサーノやブランドが傭兵や公爵家の兵士達の亡骸をこの場に引きずってくる。
彼らは勇敢で力もあったが故に死んでしまったのだ。勇気も力もなかった次期公爵ガルデリオは狼煙の近くで膝を抱えていた。
「あなたは充分によくやったわよ」




