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怖気を震う戦い②

「行け行け! 虫の息だぞ!」

 宝石のついた剣を振り上げながら、ガルデリオが突然、陣形を乱して熊の方に飛びかかっていった。彼に遅れて公爵家の兵士達が大声を上げながら剣を振り上げた。

 綺麗な円形の陣は、彼を中心として崩れ、ブランドが苦々しげな顔をした。

「戻れ! 熊はまだ生きている」

「知っているとも。俺達が息の根を止めてやる」

 ガルデリオが勇猛にも熊に斬りかかる。分厚い毛皮を裂き、血が迸った。次期公爵の美しい顔が赤く染まった。

「くそ! アルバニア、貴様は穴を埋めろ」

 カッサーノが叫ぶ。上から見ていた僕からすれば、首尾よく熊を追い詰めて、確実に息の根を止められるだろう、という直感があった。

 だが、それはただの素人考えで、あまりにも楽観的に過ぎたのだ。

 熊が激しい咆哮を上げながら、ガルデリオと共に飛び込んだ公爵家の兵士を薙ぎ払った。

 その体は木っ端のように吹き飛んで、陣を作り上げていた傭兵に当たる。そこに無防備な空間が出来た。慌てて穴を埋めようとするが、もはや予備人員は皆無に等しく、周囲を固める人の壁が薄くなっただけだった。

 それでも怯まずガルデリオは、十人の部下をけし立てて熊に向かった。

「カッサーノ! 貴様、裏切るのか!」

 公爵家の面々とは打って変わって、傭兵達はその場を動かなかった。冷淡に、熊に向かう無謀な人の列を見つめている。水を向けられた傭兵会所の主は荘重な仕草で首を振った。

「功を焦り過ぎましたな……殿下」

 その面上には強張った笑みが浮かんでいた。

 カッサーノの言う通りだったと分かったのは、熊の牙が二人の兵士の首筋を食いちぎったあとだった。熊の足元には五人ばかりの亡骸が転がっていて、残された人間のうち、士気を保っているのはガルデリオばかりという有様である。

 熊は今なお力を持っている。一撃で人間を蹴散らすだけの力を。先ほどまでの残虐な攻撃は決して無駄ではなかったが、熊の力を弱めるには明らかに足りていなかった。

 ガルデリオは焦り過ぎたのだ。熊を確実に仕留めるには、まだ攻撃を加え続ける必要があった。見れば、背中についた傷のどれもが、もう塞がっている。熊から血が滴ることはない。

 カッサーノは変わらず攻撃を続けさせたが、先ほどと違うのは、公爵家の兵士達がその中央にいて、熊がそれに攻撃を加えているということだ。

 辺りはあっという間に血にまみれた。熊は返り血を浴び、ますます気を高ぶらせている。

 そしてもう一つ、先ほどまでと違うことがある。それは陣形の薄さである。三分の一の人間が抜け、維持するのは困難になりつつあった。手の空いている人間がいない。一人でも失えば、形勢は不利になっていく。

 それが分かっているのかいないのか、逃げまどう公爵家の兵士達は半狂乱で喚きながら陣形の一角に殺到し、乱してしまった。傭兵が熊に攻撃を仕掛けた隙に、その空いた空間に逃げ出したのだ。

 自然、熊もそちらに視線を転じた。周囲がいかに攻撃を加えようと、出来た綻びに目掛けて、この巨大な生物も飛び込んでいった。

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