奇妙な成り行き⑦
森までの道中は、ほとんどすんなりといった。
三十人の一団とはいえ、ひと気のない大通りを抜けるのにさほどの苦労はない。
眼下に丘陵の傾斜を臨み、その先――都市の東に広がる広大な森林地帯を見るに至って、男達は息を飲んだ。これからあの場所に入り、どこにいるかも分からぬ熊を追うのだ。
「なに、見当はついている」
と言ったのはブランドである。秘策あり、というような自信ありげな顔をしていた。僕は息を切らしつつ、慎重に傾斜を降りた。その頃になってアルバニアが身動きをし、ジェラルド・カッサーノに頭を叩かれて目を覚ました。
「何よ、アレッサンドラ。借金なら返したじゃない!」
と鋭い声を上げながら目を開け、飛び込んできた光景にぱちくりとさせる。
彼女は、僕の頭に手をのせて周囲を見やっていた。状況が掴めていないのだろう。何せ起きたら外にいるのだから。お気に入りの温かい羽毛布団はどこにもないのだ。
きょとんとした顔の姉にカッサーノが言った。
「これから熊を倒しに行く」
「へえ、頑張って」
「お前もその一員だ」
「……」
アルバニアが眉をぴくりと動かした。誰に問い正せば事実が浮かび上がるだろう、と血走った青い瞳を周囲にやっていた。傭兵も、公爵家の兵士も俯いたままだ。下手に声を上げたら殺される。熊よりも恐ろしいんじゃないか、というような形相がそこにはあった。
「さっさと自分の足で歩いたらどうだ?」
カッサーノが冷たい声で言った。アルバニアはもう一度周囲を見やり、物々しい男達の様子に歯ぎしりをした。
「……終わったら起こして」
彼女はそのまま、もう一度寝ようとした。
いや、実際に寝息を立てていた。僕が背負い直すと、カッサーノが苦々しげに僕を睨んできた。
「その女を下ろせ。自分の足で歩かせろ」
「そんなことをしたら、寝ながら歩くことになりますよ」
「……否定出来んのが現実の嫌なところだな」
カッサーノはこの世の終末を目の当たりにしたような顔で首を振ると、そのまま集団の先頭に戻っていった。アルバニアが静かに眠ったまま、一行は森の中に入った。
森の中は今日も影が広がり、日差しの大半を遮ってしまっていた。
獣や魔物を除けるため、鈴を持った兵士が集団の外側を陣取った。ガルデリオは真ん中に、僕とアルバニアは後ろの方に回った。最後尾はカッサーノだ。追い立てられているような気がして、僕の足は自然と早く動いた。
先頭に立つブランドの足は正確に動いていた。
どこか目的地があって、そこを目指しているのだと分かる。少し前を歩いているガルデリオの後頭部を見ていると、懐にずっしりと重たい感覚があった。耳元でアルバニアの声がする。
「何でこうなったのかは知らないけれど、自衛の手段はあげたからね」
返答しようとした僕の口を塞ぎ、アルバニアはまた額を僕の肩に乗せて寝息を立てた。後方ではカッサーノの瞳が煌めいたような気がした。




