奇妙な成り行き④
その日の晩頃になって、宿屋に傭兵会所からの使者がやってきた。
何かと思ったら、アルバニアとブランド、それに僕を呼びに来たのだという。関係ないだろうと呑気に晩ご飯を食べていた僕は、その拍子に思わず咳き込んだ。
隣に座っていたブランドが背中を叩いてくれた。この使者に応じたのはアルバニアだ。
「何故、かしら?」
「カッサーノ様がお呼びです」
「……ふん、あの爺さんがね。嫌よ。私はこれからお風呂に入って、晩酌をして寝るから。夜に呼び出しとか、馬鹿なんじゃないの? 年頃の女はたいてい眠るわよ」
アルバニアは不機嫌そうだった。
まあ、何とはなしに分かる。あとは寝るだけだと思っていたところに、新たな用件が舞い込むのは面倒だ。僕もそんな気分だった。腹の底がむずむずするから、ろくでもないことを頼まれるんだろう。
それはたぶん正解で、使者は嘲弄するような、口の端を歪めた笑みを浮かべてアルバニアの意見を一蹴した。
「それは出来ない。テンターノ議長と、ガルデリオ様からも、お前達を連れて来るようにと命じられている」
「腕づくで?」
使者は頷いた。腰に帯びた剣に手を掛けようとして、周囲の剣呑さに気が付いたようだった。途端に、先ほどまでの余裕は何だったのか、と言わんばかりに面上を蒼白に染めた。
僕も食堂を見やった。その場にいた傭兵達が押し黙り、僕達の方を睨んでいる。敵意があるというよりは好奇心に負けたという感じだ。
しかも何人かの上役の名前まで聞こえてきたものだから、それがより一層口を閉ざす要因になったようだ。
「楽しみねえ」
今度はアルバニアがにんまりと笑う。
彼女の体に白色の燐光がまとっていた。いざとなれば使者をぶん殴って、路傍に打ち捨てる気だというのがよく分かる。それで僕は急いで夕食を掻き込み、口元を拭いながら、彼女を宥めた。
「まあ、まあ、アルバニア。面倒なら来なくていいですから」
「いや、そう言うわけには」
という使者をブランドが視線だけで制した。その隙に僕はアレッサンドラに尋ねた。
「それで良いでしょう?」
「……まあね。この状態でカッサーノと鉢合わせたら、たぶん本気の殴り合いが始まるだろうからね」
アレッサンドラも諦め気味だ。
アルバニアは、もう女給から酒瓶を貰ってご満悦の様子だった。木製のカップにその中身を注ぎ入れ、一気に煽る。
その豪快な様子にブランドが眉をひそめたが、僕の方はそれ以上に心配なことがあった。
「アルバニア、せめて部屋で飲みましょう。酔ったあなたを運ぶのは大変ですから」
一杯飲んで落ち着いたのか、彼女は案外すんなりと立ち上がった。
酒瓶とつまみ、それから濡れたカップを持って僕があとに続くと、その甲斐甲斐しい様子にアレッサンドラとブランドが揃って溜息をついた。
「ああ見えて、案外お節介焼きなんだよねえ」
「甘やかすとあとが面倒なのにな」




