表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/57

奇妙な成り行き②

 傭兵の男と別れた僕は傭兵会所へと向かった。

 薪を山ほど抱えた少年に都市の人達は存外優しい。顔見知りに挨拶をしつつ、腕利きの傭兵達が警戒する広場へと入った。

 その日はさすがに行商人達を入れさせる余地がないようで閑散としていた。広々とした広場を傭兵達が練り歩くようにして警戒している。

「ご苦労さまです」

 なんて言いながら傭兵会所の方へと向かう。その入り口には今日も格の高い傭兵が立っている。

 それにしても威圧感があると思ったら、ジェラルド・カッサーノが門番をしていた。

 会所の主が入り口を守っているなんて何だかおかしな話だ。僕が含みのある笑みを浮かべると、この壮年の傭兵は眉をひそめた。

「名を名乗れ! 住所は! 何の用だ?」

 僕は慌てて身を律して名を告げ、アレッサンドラの宿屋の住所を口にした。

「今日は仕事の報告に参りました」

「ふん……」

 カッサーノは荒っぽく鼻を鳴らし、鈍色の鎧を鳴らしながら扉を開けてくれた。

 中庭には、その日、新米傭兵の姿はなかった。いつも入口に立っている格の高い騎士達が何人かいて、僕を見るなり微かに表情を緩ませながら出迎えてくれた。

「こんなときにも仕事か、実に勤勉だな」

 都市の重要な仕事も担う傭兵達にそう言われて、僕は頬を赤らめた。勤勉なわけじゃない。やらなきゃ借金が増えていくから森に入ったのだ。

「何でもいいさ。今は会所の中に入れんのだよ。お偉方が議論中だ」

「公爵様の御子息がいらっしゃるからですか?」

「おや、物知りだな。その通りだ。ガルデリオ・クーランセン殿への対応を話し合っているのさ」

 僕は眉をひそめた。最悪の現実が脳裏をよぎった。けれども傭兵達は腹を抱えて、僕の予想を一笑に付した。

「はは、そう簡単に自治権がはく奪されるものか。公爵が持つ自治都市が一斉に反旗を翻すぞ。それに、運上金が低いのも理由があってのことだ」

「でも――」

「大丈夫だよ。公爵もそこまで馬鹿じゃない。ここは東の国境線沿いに近いから、本腰を入れて安全を図りたいと言うだけさ」

 まだ納得できない部分は多い。だが、僕は悪い方へと考え過ぎる癖があるらしい。アルバニアや、ブランドに言われるまでもなく、何とはなしにそんな気はしていた。

 小遣い程度の金を貰い、会所を出る。入り口ではまだカッサーノが仁王立ちしていて、じっと広場の方を睨んでいた。その脇を抜けていく。

「おい」

 振り返るとカッサーノの厳格な顔がこちらを向いている。顔に刻まれたしわや傷は伊達や酔狂で出来たものではないのだろう。

「お前、あの熊を見たらしいな」

「……はい」

 あの時の恐怖が蘇る。獣臭さ、肌から伝わる熱気、そしてあの湿ったような感覚。どれをとっても恐怖と呼ぶにふさわしいだろう。背筋が凍るような思いをしながら、なんとか頷いた。

「どうだった?」

「……意味が分かりません」

「どういう感想を持ったのか、と聞いているんだ」

 苛立った様子のカッサーノに、何と返すのが正解だろう。正直に言うべきか、はぐらかすべきか、希望を持たせるべきなのだろうか。

 どれもこれも良く分からなかった。ただ、歯が打ち合う不快な音を聞きながら、喉の奥から震えた声を振り絞った。

「お、恐ろしかったです。それだけです」

「……そうか。お前にも討伐に出てもらう。用意はしておけ」

 カッサーノは、それきり何も喋ってはくれなかった。どうして僕みたいなのが熊と戦わなけりゃあならないのだろう。

 その答えは誰も出してくれない。僕は悶々としたまま、宿屋へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ