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奇妙な成り行き①

 傭兵達が大敗北を喫して、三日が経った。

 都市にはピリピリとした厳しい空気が流れていたものの、その後、熊の目撃情報もなかったことから一部では安堵感も広がっているようだった。

 かくいう僕も、増え始めた仕事を処理すべく、何度か森に足を踏み入れている。熊が暴れ回っている様子はないと、森の管理をする傭兵達も言っていた。

「このまま、もう二度と出てこなけりゃいいんだがね」

 森を見続けている傭兵が溜息交じりに言う。その時、僕は薪を山ほど担いでいた。その重たい感覚に呻きながら、浮き出た汗を拭った。

「そんなことってあるんですか?」

「人知れず死んでいる可能性は……ないんだろうなあ。それに傭兵の死体も回収しないといけない」

 でないと魔物になってしまうかもしれないから、と傭兵ははにかんだ。寂しそうな、それでいて力ない笑みだ。

 都市へと戻った。内部はいつにも増して厳戒態勢である。

 石畳の通りを歩きながら首を捻っていると、新しくアレッサンドラの宿屋に入った傭兵が下卑た顔で近づいてきた。彼は空いたクリスティン・カバーニの部屋に住んでいる。

「どうやら公爵閣下も本気らしいぞ。熊の討伐に、さ」

「はあ。お金か人か、貸してくれるんですか?」

「どちらもだ。ガルデリオ・クーランセン様が兵を率いてやってくるという」

 その名に聞き覚えがなかった。クーランセン公爵は別の名前だっただろう、と考えていると、この傭兵は鼻でせせら笑うようにして言った。

「公爵閣下の御嫡男だ。次期公爵だぞ」

 またとんでもない人が来たもんだ、と実感も湧かない中で勝手に思う。それは傭兵も同じだったようで、彼も気のないそぶりで腰に帯びていた武器をいじくりながら、またしても事実だけを述べた。

「その上、フェデリゴ・テンターノが議会を招集した」

 そちらの方には心当たりがある。確か、この自治都市を支配する議会の長だったはずだ。ただ、やはり僕には何の関係もない人間だ。雲の上の存在と評していいだろう。

「どうなるんでしょう?」

「この辺りの連中の話じゃ、公爵家の軍に頼るって感じらしいな。森でこっぴどくやられて、都市は著しく戦力が減退しているから」

 ふむ、と考える。もしかしたら都市的にはあまり考えたくない問題になるかもしれないということだ。

 この都市は運上金を上納することで公爵家から自治権を得ている。もちろんのこと、他国から攻め立てられたら話は別だが、そういう対外的なことのほかは、自分達で解決できるだろうと考えられている。

 もし熊一匹にてこずるのだと知られたら、自治権を没収されてしまうかもしれない。

 この都市が支払う上納額は時代にそぐわないほど安価だ、と聞いたことがあった。この自治都市は多くの市を抱え、また多くの商人達が訪れる場所だ。公爵にとっては金のなる木で、出来ることなら重税を課したいと考えられているらしい。

 では、その権限を持つ公爵家の、次期公爵閣下に手助けをしてもらうというのは、どういう結果に繋がるだろうか。

 僕はひとしきり考え、どの未来もあまり良いものではないような気がした。最後には公爵家の支配下に置かれ、そのまま衰退していくような未来が薄ぼんやりと浮かんだ。

 そうなったら、僕はどうすればいいのだろうか。

 今度は当てもなく旅をするのか。傭兵が必要のない世界になっているのではないか。考え出すとあとから不安がついて回る。

「難しそうな顔をしているな、お前。駄目なら次の場所に行けばいいんだよ」

 この傭兵は簡単に言うが、彼には次を目指せる力があるだけの話だ。僕にはそんな力も権利もない。ここで生き、そして死ぬしかないのだ。

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