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森にうごめく影⑨

 結局、その日の夕暮時に二十人ばかりの傭兵達がやってきた。

 彼らの実力が劣ることは、何とはなしに察することが出来る。

 なにせ、歩くたびに魔よけの鈴や鐘を打ち鳴らし、騒々しい音とともに現れたのだから。

 その頃には、狼煙も随分と薄まっていた。

 傭兵達も、三、四人起き出して、めいめい痛んだ体を精査している。その場にいたのは十名ほどで、生き残ったのは五人だった。あとの五つは亡骸になった。

「すまないな」

 森の中だというのに新手の傭兵達は荷車を三台も持ってきていた。二台に亡骸を乗せ、残った一台に歩行困難な者を三人収容した。

 ブランドは歩くようだった。

 肩を貸すため、彼の隣に立った。彼はこれ幸いにと体重を全部預けてくる。そうして満足げに鼻を鳴らす姿はアルバニアそっくりだ。

「だが、あの熊は確実に仕留めなければならないだろう」

 疲れ切った体を引きずりながらブランドが言った。新たにやってきた傭兵達は恐ろしげな顔で彼を見つめている。

「もしも完全な魔物になったら脅威だ。俺も詳しいわけじゃないが、過去に何度か、日差しを恐れない魔物が現れたことがある。倒すのに苦労したそうだ。もしもそうなったら、森はおろか、都市まで危険に晒される」

 そこでブランドは苦しげに呻いて、唾を吐き捨てた。血が混じっている。

「すぐにでも、もう一度討伐隊を編成しないと」

「でも、その体では出来ないでしょう?」

 支えているからこそ分かることもある。

 ブランドの体は相当傷ついている。もう一度戦いをしろと言われたところで、到底耐えきれるような状況ではない。未だ止まらぬ血が腹の部分を濡らしている。足も引きずっているし、右手もぶらぶらと揺れたままだ。

 それでも、ブランドはかぶりを振った。

「やるしかないんだ」

 彼の顔が凄烈な険しさを帯びたので、僕は口をつぐんだ。

 今のブランドほど恐ろしいものも、そうはいないだろうと思う。

 周囲に視線を向けると、他の傭兵達は青ざめた顔をしている。意味くらいは分かるつもりだ。

 確かに、渾身の力を跳ね返されたとしたら絶望感くらいはあるだろう。この森に入っていった傭兵達は、少なくとも都市でも選りすぐりの精鋭だったのだから。

 僕は黙って歩いた。

 森はますます暗がりを帯びている。静かで、そして何か危うい感覚を秘めているようだ。風さえも通るのを憚っているからか、木々が揺れる音もなく、また獣が騒ぐ声もない。

 あるのは静謐だ。しかも研ぎ澄まされた。その奥には激しい衝動が待ち受けていて、爆発する瞬間を、いまかいまかと待ち受けているのだ。

 結局、帰路は何の問題もなかった。

 傷だらけの僕達が都市の大通りを辿っていると、市民達は恐ろしいものを見るような目になった。

 何人かの商人が取り乱した様子で、熊はどうなったのか、と聞いてきたものの、見たらすぐに分かることだ。彼は誰かに取り押さえられて、雑踏の中に引きずり込まれた。

 そうして僕達は傭兵会所へと戻り、その主であるジェラルド・カッサーノに報告を済ませた。彼は待ち切れなかったのか中庭にいて、そこで報告をした。

「手に負えないか?」

「はい、皆がこの有様ですから」

 報告をしたのはブランドだ。若いのに信頼されている証左だ。ジェラルドは小さく頷くと、生き残った傭兵達に休むようにと告げた。

「俺はテンターノの元へ行く」

 息苦しいほどに濃い夜霧を切って、彼は傭兵会所の敷地から出ていった。

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