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森にうごめく影④

 僕は急いで正門の方へと向かった。

 そして向かったところで足を止め、近くの物陰に身をひそめた。

 どうやら熊の影響で都市への出入りが厳しくなっているらしい。正門の前では傭兵達が、出ていく者の身分を照会している。

 これでは外に出ようもない。目的もなくむやみに外出しようとする奴は傭兵によって追い散らされている。

 僕はその場を離れた。外に出る方法はいくらでもある。ああいう立派な傭兵達が決して気付かない方法を取ればいい。

 僕の足はゴミ置き場に向かっていた。都市では沢山のゴミが出る。それを完全に処理することは困難であるし、再利用できるものは出来る限りするというのが、自治都市としての考え方である。だから一旦回収して選別する場所が必要なのだ。

 いつものようにゴミ置き場にやってくると、僕と同じようにほとんど何の才能もない名ばかりの傭兵達が今日も今日とて仕事をしていた。

「こんにちは」

 と声を掛けると、彼らは急におどおどしたような顔つきになり、相手が僕だと知れると顔をほころばせた。

「ああ、君か。どうしたの?」

「ちょっと通らせてもらいたいんです」

「……外に出るのかい? でも、森では熊が出たとか何とか」

 男達は皆、怯えたような顔つきだった。

 彼らも僕と同じようなものだ。さすがに奴隷みたいな人はいないが、それに準じる人だったり、ないしは農家の四男や五男であったりした。家族や雇い主からまともな扱いを受けなかった人達ばかりだ。

「ええ、ちょっと野暮用で」

 僕がぎこちなく笑うと、彼らもまた少しだけ表情が和らいで、すぐに都市の外へと繋がる小さな扉を開けてくれた。

 本来ならばゴミを運搬する馬車が止まっているのだが、見る限り今は影もない。

 都市の周囲の丘陵地が、人が一人通り抜けられる小さな扉の向こう側に四角く区切られて見えた。

「君には感心させられるよ」

 男達の一人が言った。僕が眉をひそめると、彼は僕の肩を叩き、背中を押してくれた。

「こんな場所でくすぶっていたら、大抵の奴は腐って、都市から離れていくのにさ」

「それは――」

 と言いかけた僕を男が制した。彼はちらと刻まれた焼印を見て、首を振った。

「君が真摯な人間だと分かればいいんだ。じゃあ、気を付けて」

 男達が見送ってくれた。

 僕は素早く外に出ると、焼印に触れ、ちぎれた雲が浮かぶ青空を見上げた。

 さっと周囲を凝望する。どこにも傭兵の影はなさそうだ。急いで丘を駆け降りた。

 この騒動で、都市へ入ろうとする馬車も森の反対側へと回ってしまったらしい。そのためか、何の障害もなく都市の東に広がる、蒼然とした森林地帯の縁を望むこととなった。

 森の中はしんと静まり返っている。いつもならばけたたましいくらいに鳥や獣が泣きわめいているというのに、今日に限っては風もなく、本当に静謐に包まれているようだ。

 日差しを受けて温かい木の幹に触れながら、森林地帯の影にじっと目を凝らした。

 事ここに至って、アルバニアに謀られたのかもしれないなんて思ったものの、もはや後戻りさえ叶わない。

 遠目に正門の喧騒が見えている。いつもならば都市の至る所から来る馬車が、東側の一角を避けているためだ。

 逃げ場はない。戻ったところで宿屋に入れてもらえないのは分かりきった事実だし、かといってあの居心地の良い場所を出て、次はどこに居を構えれば良いのかも不明である。

 そういう避けられないものに後押しされて、僕はゆっくりと森の中に入った。

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