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森にうごめく影①

 結局、捜索隊が帰ってきたその日のうちに、森への立ち入りが禁じられた。

 都市の内部は大きな騒ぎに包まれていた。不用意に外に出ない方がいいだろう、とアレッサンドラが言うので、僕はアルバニアの部屋の窓べりで、ぼんやりとしていた。

「なによ、随分とたそがれちゃって。何かあったの?」

 アルバニアは部屋のど真ん中で寝転がっていた。暇さえあれば眠っているし、食っちゃ飲んで、やりたい放題だ。今は、僕に小遣いを払って掃除をさせているところである。

「別に……何でもありませんよ」

「へえ、その割には手が止まっているけど?」

 それで、のろのろと手を動かした。窓べりを拭き、床を掃いていく。邪魔なアルバニアはベッドの上に放り投げた。すると彼女は、くつくつと笑って僕の手を握ってきた。

「何でしょう?」

「何でもないわ」

「そんなことはないでしょう?」

 なんて押し問答をしているうちに、アルバニアの面差しがブランドと重なって、そっと視線を逸らした。それで彼女の方は事情を察したらしい。頭を撫でてくれた。

「ブランドに何か言われた?」

 まるで子供扱いだ。その青い瞳で僕を見て、微笑んでくれる。

 その優しい視線にほだされて、僕はそっと罪悪感を口にした。

 それは、あの森で助けてくれた傭兵のことや、不甲斐ない自らのことだ。

 内心を吐露するのは初めてだった。笑ったり、蔑まれたりするだろうか、という考えが頭をよぎったが、堰を切ったように言葉がこぼれ出て、止めようもなかった。

 僕の予想に反して、アルバニアは真剣な顔で頷いてくれた。

「なるほどねえ」

 物分かりの良い大人みたいに何度も頭を撫でてくれる。

 僕の記憶にはないけれども、母親というのはこうして子供をあやすものなのだろうか。

 アルバニアの細い肩に頭をのせると、もう涙が止まらなくなった。何度フラッシュバックしたかも分からないが、森の奥へと消えていく傭兵の姿が蘇った。

 あのあと――僕が憶病にも逃げたあと――彼はどんな怖い目にあったのだろうか。たった一人で熊と戦い、そして死んでいく。

 彼は後悔しただろう。みすぼらしい子供を助けて自分が死ぬということに。

「それでも、あなたは生き延びたわ。まだここにいる」

「でも……」

 アルバニアの腕が、そっと僕の肩に回された。

「それに、あなただって都市になくてはならない人でしょう? あなたがいなくなったら、誰が私の面倒を見てくれるの?」

「ブランドがいるでしょう? 彼の方が、よっぽど上手く出来るはずです」

 けれども彼女は、かぶりを振った。

「馬鹿ねえ。あなたほど甘やかしてくれる人はいないんだから」

「……」

 僕は絶句した。どう返したものかと思って、けれども返す言葉がないことに気付いた。

 アルバニアは力強く抱きしめてくれた。思い返せばブランドは、この姉に厳しく接していたのかもしれない。渋々ながら彼女も引きこもりを止めていたような……。

「えへへ。とりあえずお茶が飲みたいなあ。それからお菓子も」

 彼女にはどう接するのが正解だったのだろう。今となっては分からないが、アルバニアの世話をするのは思ったよりも苦痛でないと気付かされた。

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