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邂逅⑥

 ブランド達が帰ってきたのは翌日のことだった。

 僕が寝床から出て、呑気に朝食を食べている頃だ。まるで石ころを飲みこんだかの如き感覚に苛まれていた僕は、その報告を受けて弾けるように立ち上がった。

 結局、熊とは出会えなかったらしい。

 代わりに真っ二つにされた傭兵の死体を見つけ、これを唯一の成果として持ち帰ったというのである。

 戻ってきた傭兵達は沈痛な顔をしていた。何かと申せばその熊が、アルバニアの言う通り魔物になりかけているということと、そう遠くないうちに変異を終えてしまうだろうということにあった。

「野放しにはできないだろうな」

 というのが、森に入った傭兵達の総論であった。

 今はそれぞれが、それぞれの場所に報告しに行っているところだ。アレッサンドラの宿屋にはブランドがやってきていた。彼は食堂の真ん中にある長机に腰かけ、冷たい井戸水を一気に煽った。

「森の奥はひどい有様だった。木々がなぎ倒されていたし、腐って溶けた獣の亡骸が至る所に転がっていたよ」

 その森の惨状を目の当たりにしたブランドの言葉に、皆が聞きいっている。彼の周囲には人だかりが出来ていた。僕はちょっと離れたところで、恬淡なそぶりを装って聞き耳を立てた。

「その熊はどこにもいなかったのか?」

 と問うたのはカバーニである。アルバニアの向かいに住んでいる男だ。彼は勇ましい傭兵らしく刀身の短い剣を手入れしている。ブランドは、その様子をちらと見て大きくかぶりを振った。

「ああ、見つからなかった。痕跡は至る所にあった。爪の傷跡が木の幹にたくさん残っていたし、足跡もあった」

「なら、何故最後まで追わなかったんだ?」

「森の奥深くに入り過ぎていたからだ。それに、あの熊はとんでもない変種だ。たぶん、普通の二倍以上の大きさがあると思う」

 ブランドは苦々しげな顔をし、女給に水のお代わりを要求した。今度は冷たい水の中にレモンの果汁が落とされて、それを彼は一気に飲み下した。

「ふう、……それに、どうやら特定の寝床を持たないらしいんだ」

「どういうことだ?」

「例えば、俺達が最初に見つけた穴蔵では狼の親子が十二匹も二つに引き裂かれていた。子狼の柔らかい肉だけを食べて、親狼の体ははらわたを引き裂いただけだった」

 それを聞いて、その場にいた傭兵達は苦々しい顔つきになった。中には想像してえずく者さえいる始末で、僕なんかは自然とグラスを握る手に力を込めていた。

「次の場所では魔物が踏みつぶされていた。文字通り、足で潰したんだろうな。ぺしゃんこの死体があったよ。それで最後、三つ目の草陰で俺達は哀れな傭兵を見つけたんだ」

 それを聞いて、手を止めていたカバーニが恐る恐ると言ったていで問い返した。

「つまり何か? その熊は人間の死体を咥えたまま、森を移動していたっていうのか?」

「俺達が足跡を正しく追っていればな。間違いなくあの熊は死体を咥えたままだった。魔物の住処までは血が滴っていたから」

 その場にいる傭兵達が天を仰ぎ、深い溜息をついた。それでブランドの方も肩の力を抜いて、首を何度か回し、ほっと一つ息を吐いた。

「ともかく、今日中に会所の中で会議が行なわれるはずだ。早急に始末しないと秋には手がつけられなくなるだろう」

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