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邂逅③

 熊から逃げおおせた僕は、早速森の管理をしている傭兵の元へと行き、先ほどの光景を告白した。

 傭兵達は血相を抱えていた。とてもじゃないが、三、四人でどうにかなる代物ではないらしい。

 それで僕は急いで都市へと舞い戻り、正門のところで暇そうにしていた傭兵達に事情を告げた。

「熊、ねえ」

 こちらはまるでそっけない。僕がいくら言葉を重ねたところで、森の方を見るだけで、首を振るばかりだ。

「本当なんです。それで、森の方に人員が必要で」

 都市の塀門で喚く僕を通りがかる人が揃って奇異の目で見つめていた。ほとんど冷静な判断は出来ていない。縋らんばかりに二人の傭兵に懇願し続けた。

「おい、何の騒ぎだ?」

 と、その時、声を掛けてくる人があった。まなじりに浮かんだ涙を拭い、傭兵の肩越しに見る。

 ブランドだった。精悍な顔をしたアルバニアの弟が眉をひそめている。

 持ち物を見る限り、どこかに狩りにでも出かけようというのだろう。そんな彼が僕に怪訝な表情を浮かべた。

 途端に心臓が跳ねる。呼吸が浅くなった。身を強張らせた僕を見かねてか、二人の傭兵が話を要約してくれた。森に巨大な熊が出て、人が一人行方不明だ、と。

 ブランドは険しい視線を僕に向けた。腹の底に得体の知れない感情が沈殿する。喉を上下させると、ブランドが渋面をつくった。

「こんなところで喚いていても仕方がないだろう。お前は今すぐ会所に行け」

 そう言われて初めて気が付いた。それもそうだ。入口に立っている傭兵に喚いたって、何の解決にもならないのだ。

 僕は急いで駆けだした。今日も大通りは人でごった返している。その雑踏を半ば押しのけるようにしてかき分け、息をせき切らし、汗みずくになりながら通りの終点、広場まで向かった。

 一直線に、傭兵会所の荘厳な門までやってくる。

 やはりその日も格の高い傭兵が一人立っていて、血相を抱える僕に冷然とした視線を向けてくるのである。

 僕は、その傭兵の肩に手を掛けて、半ば持たれるようにして、とぎれとぎれに言った。

「も、森に、熊が出ました……。それで、よ、傭兵の、一人が襲われて」

 と言ったところで大笑いをしている膝に力が入らなくなって膝をついた。

 あの勇敢な傭兵はどうなったのだろう。僕は一目散に熊から逃げてしまった。彼は僕を逃がすために、命を掛けて熊に攻撃を加えた。どちらが生き残るべき人間だったのか。

 そう考えると涙が止まらなくなった。

 その格の高い傭兵の体に縋りつき、とめどなく流れる涙と嗚咽に耐えきれなくなった。石造りの階に滴が落ちる。僕は深々とこうべを垂れて、その傭兵に懇願した。

「お願いします。助けてください」

 鉄の板を重ねた鎧が微かに擦れる音がした。顔を上げると傭兵の背中が見えていて、彼はその巨大な門を開けたところであった。

 その奥に広がる芝地では、今日も今日とて鍛錬をしている者達がいて、彼らに向かって勁烈な声が飛んだのであった。

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