邂逅①
ブランドが帰って以来、僕の悩みは深刻化する一方だった。
彼は恐ろしいほど腕が立つし、アルバニアの世話だってやってしまうからだ。
「ああ、随分と痒い所に手が届くわ」
アルバニアはその端正な顔を和ませて、弟をそう評した。
それは僕へのあてつけなのだろう。少なくともそう取れるような態度と言動である。
結果的に、あまりアルバニアに近づかなくなった。
ブランドの目が常にこちらを見ているような気がして、何とも居心地が悪い気がしたからだ。
ただ、その態度があまりにもあからさまだったからか、ある日の朝食の時、唐突に僕の真ん前に座ったアレッサンドラが難しい顔をして言った。
「あんた達、喧嘩でもした?」
「いいえ、何故です?」
「いや、最近つるんでいるのを見ないからね」
アレッサンドラは悩ましげな顔で考え込んでいる。
どうやら他人から見ても分かるほど明確な態度の変更だったらしい。
それもそうだ。ブランドが帰ってくるまでは、僕が毎朝アルバニアを起こしていたのだから。今は違う。今は一人で朝食をとり、仕事を貰いに行こうとしている。
「じゃあ、何か悩みでもあるのかい?」
「特には……」
人に教えてもらうことでもあるまい。僕がこの都市で、どう過ごしていけばいいのか、など。
いつものように朝食を流しこみ、僕は立ち上がった。近頃は真面目に仕事をしているからか、傭兵会所から優先的に仕事を回してもらえるようになった。
足早に食堂を出ようとする僕に向かって、アレッサンドラが声を掛けてきた。彼女はまだ、椅子に座ったままだ。
「何かあれば私に言いな」
「お気づかいには及びません」
僕は首を振り、急いで身支度を整え、商人達が蠢く大通りへと飛び出した。
その日、僕に与えられた仕事は薪拾いだった。
森に入って枯れ技を集めてくるだけの仕事だ。
その深部には獣や魔物が蠢いているけれども、入口の方にはあまりいない。学者達の話によれば、日光が関係しているのではないかというのである。魔物は過度に日差しを恐れるのだという。
であるから僕はあまり周りを気にせず森の中に入り、枝を拾っていた。ちらと窺えば、森の入口が見えているし、周囲にだって僕以外の動物の気配はなさそうだった。
森は不思議なほど静かだった。いつもならば、それなりに獣の声も聞こえてくるはずであろうに。
ふと、僕は視線を上げた。この森の沈黙が耐え難く思えた。
まだ枝葉もまばらな部分があって、まだら模様に日差しが落ちている。日は南中へも昇ってはおらず、これから旺盛な陽光が差すのだと主張しているようであった。
僕は森の奥を見つめた。森の中が死んでしまったかのような静けさであった。
その時だった。僕の考えをあざ笑うかのように、その沈黙を破って遠くから地鳴りの音が響き渡った。




