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ブランド⑥

 銀行というのは、金が集まればそれで良いと思えるような人の集まりであるようだ。

 少なくとも僕はそう断じた。なにせ辛うじて持っていた紙幣を出しても、文句一つ言わずに預かってくれるのだから。

「いつでもどうぞ」

 乞食でないと分かれば、途端に愛想がよくなる。

 全ての用件を終えてもまだ黄昏には早いようだった。

 傭兵会所に寄って、何か仕事でも見繕うか、と思っていると、隣に立っていたブランドが心地よい笑みを浮かべて僕の肩を掴んだ。そのまま有無を言わさず引きずられる。

「あの、どちらへ?」

「気にするな、ついてくればいい」

 とブランドは言うものの、僕からすれば困った問題だ。どこへ行くのか分からない。何より、酒屋が開いている時間には帰らないとならない。

「その頃までには開放するさ」

 と言ったブランドの足は、通りの終点――つまりは都市の中央に広がる広場の一画で止まった。

 傭兵会所だった。まさか気を使ってくれたのだろうか、と思うとそうではないらしい。

「お前は、どうも頼りない。見たところ武器も満足に扱えないようだし……」

「それは、その。僕は元奴隷ですから……」

 消え入りそうな声で言うと、ブランドは眉を吊り上げた。

「それに、その卑屈な考え方」

 彼の青色の瞳が真っ直ぐ僕を捉えていた。その瞳の表面に自らの顔が浮かんでいる。怯えた、卑屈そうな顔が。元奴隷と口にした時、僕はこんな顔をしていたのだ。

「俺はそれが気に食わない」

 ブランドは僕の首を引っ掴むと、そのまま傭兵会所の中に入っていった。

 向かう場所といえば決まりきったもので、あの芝地で声を荒げる老人の前である。

 老人は、僕を見るなりにんまりと笑った。空腹の獅子が手負いの兎を見つけたかのごとくである。仰ぎ見ればブランドが怖い顔をして僕を睨み下ろしていた。

「強くなる必要はない。だが、その性根は叩き直してもらえ」

 彼は僕を芝地に投げ捨てると、すぐに踵を返してしまった。

 いつの間にか、彼の手には空の酒瓶とアルバニアから受け取った金がある。慌てて懐をまさぐったから、あれが本物であることは分かる。

「ブランド!」

 と彼の背中に声を掛けたが、彼は振り返ったりしなかった。

 肩をすくめ、そのまま傭兵会所から出て行ってしまう。

 追いかけようとした僕の首根っこを、老人の節くれ立った手が掴んでいた。その冷やりとした感覚に驚いて振り返ると、老人は満面の笑みを浮かべていた。

「ようやっと来たな、少年。楽しみにしていたよ」

 半分ほど歯を失った口がむき出しになるほどの笑みを浮かべている。

 僕は顔を引きつらせた。けれども現実は変えようもない。

 老人の杖が鋭い風切り音を纏ったかと思うと、強烈な衝撃が僕の体を襲った。何かといえば簡単だ。老人の杖が僕の体を打ち叩いただけである。

「立て、貧弱者め。お前の奴隷根性を叩き潰してやる」

 老人の声が辺りに木霊した。

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