ブランド⑤
用件を終え、僕達は店を出た。
僕の懐はずっしりと重い。聞けば銅貨であるらしい。北の港で発行されている物のようだ。赤銅の色が、まだ目に焼き付いている。目を輝かせる僕を見て、ブランドが呆れた顔をした。
「お前、金くらいは見たことがあるだろう?」
そうは言われても、僕が見るのは金属貨じゃない。石ころとか貝殻とか、それこそ紙で出来ている貨幣とかだ。
この都市に住む多くの人は実体のない物に興味を示さない。よほど大きな額を動かす商人でもない限り、貨幣の価値は使われている素材に左右されるのだ。
そういう意味で僕が貰うお金は最底辺だ。ほとんど価値はない。その日暮らしをする人が頻繁に使う程度のお金だ。
ブランドは苦々しい顔をして歩きだした。彼みたいな腕の立つ傭兵は、もっと割の良い仕事が出来るだろう。だが、僕みたいな人間は都市のゴミ拾いだとか、老人の小間使いだとかに終始せざるを得ないわけである。
それが嫌だとかいうことはない。むしろ楽しいくらいだ。奴隷だった頃はもっときつい仕事をしても、お金なんて貰えなかった。むしろ鉄拳が飛んだり鞭がしなったり、苦痛の方が大きかった。それに比べれば、この都市は天国みたいなものだ。
そう言うと、ブランドはますます怪訝な顔をした。
何かと思っていると、僕の手元を指差してくる。それで僕も自分の手元に視線を落とした。
僕の右手には麻の袋が握られている。どうやら無意識のうちにゴミ拾いをしていたらしい。金にならないとアルバニアなどは目を吊り上げるのだが、しかし、気になるものは仕方がない。この都市の人達は衛生観念に鈍感過ぎるのだ。
次にブランドが向かったのは銀行だった。先頃の大取引の余波はもう収まっているようで、ブランド行きつけの銀行は閑散としていた。何なら、彼の姿を見止めた店員が勢いよく駆け寄ってくるような有様である。
「今日の御用向きは?」
その店員はブランドに満面の笑みを浮かべる半面、僕のことを除け者にしようと、体を巧みに移動させる。
あっという間に僕とブランドの間に入って、僕の方には背中を向けてしまった。
ブランドと店員は、にこやかに会話をしながら店の奥に行ってしまう。
僕はただ一人、気後れしながら、その背中を追うばかりだ。そのうち足が止まって、二人との距離が離れていった。
預入だとか何だとか、難しい話しをしているブランドを、ぼんやりと見つめているだけだ。
すると、ブランドがこちらの様子に気が付いた。彼は驚いた顔で僕を手招きする。僕がきょとんとしたまま首を振ると、彼はすぐに近づいてきた。
「早く来い」
「でも」
と言い澱む僕を、ブランドは半ば引きずるようにして目的の場所まで連れていった。銀行の受付台では、先ほどの店員が眉間にしわを寄せていた。
「そんな顔をするなよ。こいつも客だ」
「はあ」
店員は、じろじろと僕を見ている。とてもじゃないが客にはなれそうもない。こんな店に石ころとかを持ち込んだら、それこそ命の危険があるんじゃなかろうか。
けれどもブランドは激しくかぶりを振った。
「良いんだよ、それがこいつらの仕事だ。ほら、さっきの金を出せ」
そう言われて、狼の毛皮を売った代金を出す。すると店員は途端に愛想良くなって、僕の為に口座とやらを作ってくれることになった。
それが何かは分からないが、僕のお金は盗まれる心配がなくなったらしい。
指紋を採ったり、署名をしたり、忙しなく時間が過ぎた。




