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ブランド③

 再び食堂に戻った時、すでにブランドは用意を済ませていた。彼は、僕の腰にぶら下がった酒瓶に半眼を向けてくる。

「アルバニアの分です」

「……あまり甘やかさないでくれ」

 ブランドは口の端を歪めながら、嘆かわしげに首を振るばかりであった。

 僕達が宿の外に出た時、ちょうど大きな取引が終わったところだったようで、何人かの商人が勢いよく大通りを駆けずり回っていた。

 ブランドは、その様子を恬淡に見ていた。

「どうやら銀行は混みそうだな……」

「銀行、ですか?」

「稼いだ金を預けておきたかったんだが、この分だと時間をあけた方がいいだろう。ひとまずは、君の用事から済ませようじゃないか」

 こういう面倒見の良いところは、どこかアルバニアに似ている気がする。

 ブランドは、のんびりと歩き出した。彼は大柄で剽悍な体つきの男でもあるから、人込みはほとんど苦にならないようだ。

 なにせ平均よりも頭一つ分は大柄で、尚且つ厳めしい顔つきが人々を僅かに離れさせるのである。

 僕もブランドのあとに続いて歩き出した。この都市は比較的に治安が良い方ではあるけれども、泥棒がいないわけじゃない。狼の毛皮を肩に掛け、アルバニアから預かった金はポケットの中で握りしめた。

「君は――」

 切りそろえられた石畳の道を歩いていた時、不意にブランドが振り返って僕に微かな笑みを浮かべてくれた。

 その笑みには何だか含みがある。何かあったのだろうかと思っていたが、よくよく考えれば、僕の態度はあまりにも田舎者臭すぎる。

 道行く人をざっと見ても、僕みたいに過剰な警戒心を持った人間はそういない。いるとすれば、どこかの農村から出てきたばかりの出稼ぎか、さもなければ仕事に慣れていない若者かといった有様だ。

 東から来た元奴隷としては正しいのだろうが、これでは大金を持っていますと公言しているも同然である。

「まあ、慣れればいいだろう? それに盗まれると言ったって、アルバニアの金だ」

「ええ、アルバニアのお金です」

 それが恐ろしいのだ。今の僕には返す当てがない。ただでさえ、アレッサンドラの方からも借りているのに……。けれども、ブランドはくつくつと笑った。

「気にするなよ。あいつは酔い潰れて毎晩のように金を落としている」

「でも、僕が盗まれるのとはわけが違うでしょう?」

「一緒さ」

 ブランドはなおも笑い声を上げていた。周囲の人達が、こちらを奇異の目で見ている。けれども彼は全く気にすることなく、僕の頭を荒っぽく撫でた。

「まあ、気にするな。どうせあいつは、お前に酒を頼んだことさえ忘れているから」

 その言葉が正しいのかどうか、僕には判断が付かなかった。いかにアルバニアといえども、そこまで馬鹿じゃないだろう、と思うのも半面、本当は忘れているかもしれない、という直感があるのも事実であった。

 僕達は、とある小さな商家で足を止めた。金属の看板を見上げる。

 多少勉強したとはいえども、まだ文字の読み書きは出来ない。たぶん、傭兵達の武具を扱っているお店なのだろうけど、それすらも判然とはしない。

「いずれ、ここに買い物に来るかも知れんからな」

 ブランドは心地の良い笑みを僕に振り向け、そのままゆっくりと店の中に入った。

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