ブランド①
狼に襲われてから二日が経った。
森への探索が行なわれたものの、狼達が逃げた要因は結局分からずじまいだった。
その調査団は、何かの要因で逃げてきたのだろうが、その何かは不明である、というおざなりな結果を提出して、結局その一件は無かったことになった。
まあ、それはあまり僕には関係のないことだ。森の奥に行かなければいいだけの話なのだから。
僕にとって最も重要なことは、僕自身に課せられた借金をいかにして早く返すのかということである。
そのために、あの狼の皮を売ることにした。そのことを朝食も終わったあとの静かな食堂でアレッサンドラに告げた。
「ふうん」
彼女は恬淡な様子だ。たかが狼の毛皮一枚のことである。しかも、最低限の処理しかしていない。それなりの値にしかならないのは事実であろう。
「それで、どこか売れそうな場所を紹介してほしいんです」
あの時集めたキノコは、その徒労に比して、さしたる利益を生まなかった。
本来であれば、森の入り口付近で集められるような代物だからだ。時にはその辺の都市民――傭兵ではない――が勝手に採集してくることだってあるような代物である。
「そりゃ、どこかの店に行くのが一番だろうね」
「どこかありませんか?」
「うーん」
アレッサンドラは途端に頭を抱えた。
「無いわけじゃあ、無いが……」
「値段は気にしません」
「うん、それも良いんだが、厄介なのはカモられる可能性があることさ。あんた、田舎者臭いし、交渉術に長けたタイプでもないしねえ」
その歯切れの悪さに僕は顔をしかめ、それではと一つ条件を付けることにした。
「アルバニアも連れて行きますから」
「あの子を?」
アレッサンドラは髪の毛を掻きむしり、それから肥えた腹を撫でた。
どうやらアルバニアも、あまり交渉術に長けたタイプではなかったようだ。
それに、ここ二日というもの、筋肉痛と関節痛でベッドから起き上がれない状態である。あれを歩かせるのも何だか気が引けるし、おんぶして店まで行くのも恥ずかしい。
ではどうするのだと代替案を求められたところで、僕に妙案があるわけでもなかった。
「アルバニアがどうかしたか?」
その時、不意に後ろから声を掛けられた。
僕とアレッサンドラが同時に視線を向けると、食堂の入口に精悍な若者が立っていた。
腕の良い傭兵なのだろう、と分かるのは、特注の鎧を着こんでいるからであるし、腰にも背中にも武具を身につけているからだ。弓や槍、それに剣や棍棒などを担いでいる。
「ああ、あんたかい」
アレッサンドラはなおも無感情な様子で、その男に声を掛けた。
男は金属が重なる甲高い音を響かせながら、僕達の前にやってきた。
近づくと分かることだが、どことなくアルバニアに似ているような気がする。顔の造形か、それとも佇まいか……どちらが優勢かは判然としない。




