少年は都市へと至る②
朝日と共に目が覚めた。
泥濘のようなまどろみの中で、僕は身じろぎをした。
と、僕の体は冷たい滑らかなリネンの感触に包まれていて、一瞬にして眠気が吹き飛んだ。
弾けるように飛び起きる。膝は柔らかなベッドに支えられ、先ほどまで乗っていた頭の形に枕が歪んでいる。肩から腰に掛けてリネンの掛け布団がずり落ちた。
朝日が差し込む窓を見る。白色の光が遮る物もなく降り注いでいる。その眩しさに思わず身じろぎをして、ベッドから転がり落ちた。
けたたましい音が響く。
打った頭がじんじんと痛み、疼く後頭部を撫でようとして右腕が上がらないことに気が付いた。
見れば包帯が巻かれている。あの地獄のような農場から逃げた直後、馬に乗った騎士に襲われた時の傷だ。深くまで肉を抉ったのは覚えている。
他にも包帯が巻かれている場所があった。野茨で傷ついた左足や、転んだ拍子に捻挫した右の手首などに。あとは……変な臭いのする軟膏が塗られているだけだ。
ベッドに手をついて立ち上がろうとしたところで、この部屋のドアが開いた。
その奥にはでっぷりとした腹を抱える壮年の女が立っている。いや、冷然とこちらを見下ろしている。その冷淡な瞳がどうにも恐ろしくて、僕は喉を鳴らした。
「ああ、起きたのかい」
その女は、僕をじろりと見下ろすと恬淡な様子で溜息をついた。彼女が部屋の中に入ると、それほど広くもない堆積がさらに小さく感じられる。
見れば、この部屋にはベッド一つ置くくらいの面積しかなさそうだった。女は窓べりに腰を掛け、申し訳なさそうに肩をすくめた。
「物置に押し込んだからね。狭くても我慢しな」
「いえ……」
そう返すしかない。
なんたって現在の状況を何一つ理解出来ていないからだ。
僕はぽかんと口を開けたまま、周囲を見渡した。白い壁に煤けたドア、他には……太った女だけだ。物置というわりには物がないし、綺麗過ぎる。
「昨晩、ここに運び込まれたのさ」
と言われて、僕はさっとあの夜のことを思い出す。二人の衛兵に引きずられてきたはずだ……。
「ありゃ傭兵だ」
「傭兵?」
「そう傭兵。ここは自治都市でね。毎年決まった額の上納金を払う代わりに自由を与えられているんだ。で、その自由が為に都市の治安は自分達で守らないといけないってわけ」
「それで、兵士をお金で雇っているんですか?」
「そうさ。……あんた、奴隷の子の割には理解が早いねえ」
そう言われるのは、良い気がしない。
ただ、僕がむっと顔をしかめたのを見て、この女はくつくつと笑って謝罪してくれた。
「悪かったね。とりあえず水を持ってくるよ。それから着替えをして……お腹は空いてる?」
腹をさする。この四日間、ほとんど飲まず食わずだった。空腹を通りこしてしまって何が何だか分からない。
「ふふ、そうかい。じゃあ、ご飯を食べてみればいい」
この女はくぐもったような笑い声を上げながら部屋から出て行ってしまった。