初めての仕事⑦
どれほど近付かれただろうか。光から判断する限り、半分ほどの距離だろう。狼の大きさは分からないが、それでもきっと森を抜けるまでには追いつかれてしまうだろう。
アルバニアは何度目かの指笛を鳴らした。
彼女の方も頬に一筋の汗が伝っていて、それほど余裕がないのだろうということが分かる。
心臓が激しく脈打っていた。息も乱れ、もう足も上がりそうにない。
何度目だろうか。木の根っこにつまずいて転んだ。僕を起こそうと振り返ったアルバニアが、遥か後方を見て諦観の表情を浮かべた。
「あんた、立ち上がれる?」
猛烈に近づく狼の群れを前にして、アルバニアが勇ましい顔をした。
何とか立ち上がれる。
どこかに強くぶつけたようで、足に鋭い痛みが走った。膝に手をついて立ち上がったものの、もう走れそうになかった。
「じゃ、しょうがない」
アルバニアは溜息をつき、僕に木に登っているようにと指示を出した。
「あなたはどうするのです?」
「戦うしかないでしょう? 二人して餌になる気はないんだから」
「でも、どうやって?」
どうやらしつこく聞き過ぎたようだ。アルバニアは煩わしげに手を振り、ぶつくさと聞いたこともない言葉を話し始めた。
その途端に、彼女の周りに大きな風が渦巻いた。
彼女の体の輪郭を淡い白色の光が照らす。それで僅かに闇が紛れた。
「あなたはそこで見ていなさい」
凛とした声だ。普段の彼女からは想像もつかない。
僕は光り輝くアルバニアと、そして迫りくる狼とを、じっと目を凝らして見ているしかなかった。
木の上で、ただ傍観しているしかない。
なにせ僕には武器というものがない。僕が持っているのはせいぜい籐の籠とキノコくらいなものである。青々と茂る葉を押しのけるようにして、近づいてくる光に目を凝らした。
視界の先ではアルバニアが眉間にしわを寄せている。
彼女はじっと両手を前に突き出して狙いを定めているようだった。
狼達もそれに気が付いたのか、さっと三手に分かれてしまう。光の集団が三方から、すなわち前方と左右から一斉に距離を詰めてくる。
「あなたはそこで見ていなさい。危ないから」
アルバニアは、まるで歌うように声を放った。
その旋律が奥の耳にも届く。けれども意味をなしている言葉なのかどうか、どうにも判別できなかった。僕の頭が言葉を理解することを拒絶しているようである。




