初めての仕事③
都市の外は緩やかな傾斜になっている。
この自治都市は帯状に連なる丘陵地の一角に建設されたのが始まりなのだそうだ。
その頂上からは周囲の様子が凝望でき、西側に広がる森林地帯の広大さが一目で分かるのである。地平線の彼方まで各種様々な木々に覆われている。
アルバニアは大きく伸びをしながら、その森林地帯へと向かった。僕も慌ててあとを追いかける。
徐々に視界が平坦なものになる。周囲の平原や森林地帯と同じ目線になる。
ほんの二十分ばかり歩いたところで森林地帯の際に辿りついた。枝葉が隆々と伸び、濃い影が足元を覆っていた。
アルバニアは周囲を見渡していた。
何かと思ったら木々の隙間から壮年の男が出てきて、僕達を一瞥した。どうやら森から獣や魔物が出て来ぬよう見張りの役を果たす傭兵らしい。
彼女達は気安く二、三の言葉を交わし、そのまま別れた。アルバニアは僕の方を見て、さっさと来い、と手招きをした。
アルバニアは何の躊躇いもなく木々の間に入った。その背中が小さくなるごとに僕の心には憶病さが幅を利かせるようになったが、尻ごみしてばかりもいられなかった。
急いであとを追いかける。僕の脳裏には、あの日――騎士領から逃げた日――の光景が思い浮かんでいたが、けれども今は違う。
傭兵としてアルバニアと共に森に入っているのだ。それがどれほどの安心感を与えてくれただろうか。彼女には言えないことだ。
「キノコってさあ、結構じめじめした所に生えてんのよね」
森に入ってすぐアルバニアがそんなことを言った。
忙しなく周囲を見渡していたかと思うと方向転換をし、とある木の前で立ち止まった。
「んで、これがドドリゴっていう木なんだけど……」
とアルバニアが叩いたのは老人の腰のように曲がった木であった。
節くれ立った皮が特徴的で、伸びた枝は細く弱く、そこから生える小さな葉は黄味がって、縮れていて、貧相だ。病気なのかと問うたら、これが正常なのだとアルバニアは言った。
「足元、見てごらんなさい」
そう言われて、このドドリゴという木の根を見る。そこには小さな白色のキノコが二つ三つ顔を覗かせていた。腐葉土を乗り越えるように健気に頭を覗かせている。
「そこの一番大きいの取って」
アルバニアは仁王立ちをしたまま指を差す。それで僕はしゃがみ込んで、慎重に土を掘りながら一本を根元から手折った。
それをアルバニアに渡すと、彼女はくんくんと鼻を鳴らした。次いで僕の鼻先にも寄せた。
鼻孔をくすぐるのは雨のあとに土から漏れる、こもった臭いだ。鼻の頭にしわを寄せるとアルバニアはくつくつと笑った。
「肴には良いんだからね」
飲兵衛のいうことは信じられそうもない。僕は溜息をつき、もう一度ドドリゴの木の足元に視線を戻した。
「駄目よ、他のキノコは小さすぎる」
彼女に言われ、僕はアレッサンドラから借り受けた――これにも使用料が付いた――小さな籐の籠にキノコを収め、さらに奥へ奥へと向かうアルバニアのあとを追いかけた。
森の中はしんと静まり返っていた。鳥や獣の声さえもしない。ただただ夜露に濡れた土の香りがはびこるばかりだ。




