初めての仕事①
翌日一番の仕事はアルバニアを起こしに行くことだった。
だから朝食を食べてすぐに身支度を整えて、彼女の元へと向かったのである。
この宿屋の地上部分は四つの階層からなる。彼女が住んでいるのは最上の四階で、そこは格の高い傭兵共しか住めないような豪奢な造りになっていた。
板張りの廊下を歩く。その終点にアルバニアの部屋はある。ノックをするが返事はない。二度、三度と繰り返すも同様である。
僕は首をかしげた。いないのだろうか? と思っていると、突然後ろから声を掛けられた。
「何度叩いたって無駄だぞ」
振り返ると、見るからに筋骨隆々といった感じの男がいる。少しだけ間を空けて、僕の脳みそが答えを告げた。
「カバーニさん」
その男の名はクリスティン・カバーニである。長く傭兵をしていて、その人柄も腕前も人々の認めるところである。アルバニアとは正反対に位置する人だろう。誠実で、真面目で、勤勉な人だ。
「そいつは絶対に外に出てこないぞ。話がしたけりゃ中に入れ」
「でも、鍵は?」
「していると思うか?」
カバーニがくつくつと笑った。
なるほど、アルバニアが施錠していると思う方がどうかしている。
僕は何度も頷き、カバーニに頭を下げた。彼の方は完全武装といったていで、そのまま階段を降りる。剣や弓がぶつかる微かな物音を残して、彼の姿は見えなくなった。
僕はそこまで見送ってから、やっとの思いで目の前の扉に視線を戻し、そのままドアノブに手を伸ばした。
何の感慨もなく扉が開いた。中は相変わらず雑然としている。
入口のところに転がっていた酒瓶を払いのけ、中に入る。奥に行くほど、むっと女の匂いが立ちこめる。それと同じくらい濃く酒の匂いも漂っていた。鶏小屋の臭いがしないのは魔法の賜物なのだろうか。
僕は急いでカーテンと窓を開け放った。途端に朝日と烈風が吹きつけて、アルバニアの髪の毛を揺らした。
彼女は何か不明瞭な呪詛をまき散らしながら、もぞもぞと動きまわっている。仕方なしに毛布をはぎ取ると半裸の女がお目見えした。
とはいえアルバニア相手だと、何故だか劣情は沸いてこない。こなくなった、と言うのが正しいだろう。
こういう恥部に見慣れたからか、肉付きの良い肢体を見たって特別な感情は沸かないのだ。
何度かアルバニアの肩を叩くものの、起きそうな気配は微塵もない。それで仕方なく毛布に包み直して肩口に担ぎあげた。
そのまま階段を降り、一階まで戻ってくる。食堂の前で待ち受けていたアレッサンドラが、ぐるりと目を回して天を仰いだ。
彼女に着替えを持ってくるよう頼んで、アルバニアを浴場へと連れて行った。
幸いなことに中には誰もいない。この傭兵達が使う浴場には温泉が流れている。都市の近くに源泉があるらしく、そこから引いているのだという。
その人肌よりも遥かに熱い――されども疲れ切った体にはちょうどいい――お湯の中にアルバニアの体を放り込んだ。
水柱が勢いよく跳ねあがる。
僕は急いで毛布を回収し、湯船の中で暴れ回るアルバニアを、じっと観察した。
その内アレッサンドラが戻ってきて、彼女は石鹸を片手にアルバニアの耳をむんずと掴んだのであった。




