アルバニア⑥
日も暮れる頃になって、全ての用件が終わった。
老人の厳しい顔つきが脳裏に焼き付いていた。剣を振る一動作から始まり、槍や弓、果ては投擲術などを一通り習わされたのである。
まあ、こんな物はお試しの部類に入るわけだ。傭兵会所としては、その傭兵がどんな才能を持っているのかを把握しておかねばならないのである。
その結果、僕は武芸の才能がないらしい、ということが分かった。
そうして僕は傭兵として正式に認められることになった。とはいえ、これといった証や証明書があるわけではない。
傭兵会所とクーランセン公爵と、それから何人かの自治領主が持つ傭兵台帳に、名前と身体的特徴が刻まれただけだ。一番の特徴は焼印だろう。それを見て男は笑った。
「おかげで、お前自身を証明するのが簡単じゃないか」
そういう考えもあるのかと少し驚いてしまった。
その日、もう夕暮れになるという頃だったので、僕とアルバニアは宿屋に帰った。
アレッサンドラが満面の笑みで迎えてくれた。僕の借金は、また一日分増えたようである。それでも気にはならなかった。男が腕試しに、と仕事を一つ用意してくれたからだ。
「へえ、森林でキノコ狩り……」
夕食を食べながら報告をすると、アレッサンドラはますます笑みを深めた。隣にはアルバニアがいて苦々しい顔をしている。
「私、嫌よ」
「まだ何も言っていないだろう?」
「どうせ、ついて行けって言うんでしょ?」
口を尖らせるアルバニアに、アレッサンドラが勝ち誇ったような顔を向けた。
「そうだよ、文句あるかい?」
「……ないわよ! 有ればいいとでも思っているの?」
「そりゃあ、ねえ。うちの四階に住みたい奴は山のようにいるからね。金を払わない奴よりは、払う奴を入れたいと思うのが商人の考えだろうさ」
「ぐうう! この都市の良心は死んだんだわ! 拝金主義者の巣窟に成り下がった!」
どうやら彼女達の相性は、とことんまで悪いらしい。いや、つけ込まれる隙があるアルバニアが悪いのか?
じっとこの金髪碧眼の怠惰な女傭兵を見つめていると、どうも僕が情けない顔をしているように映ったらしい。
アルバニアは、ぐっと喉を鳴らして芸術品のように整った顔を歪めた。
「ちくしょう。そんな仕事、お金にならないじゃない」
「でも、あんたの健康のためには良い」
「私の健康は魔力で保たれているのよ」
「切れた途端にババアになったら、それはそれで面白そうだね」
一体何の話だろう。僕が首をかしげても二人は教えてくれなかった。
だから僕は夕飯を勢いよく腹の底に流し込んで風呂に入り、そのまま寝た。夜はやることがない。奴隷が起きていてもろくな目には合わないのだ。
……と思ったところで、僕は奴隷ではなくなったのだ、という事実に行き当たった。
それでも僕は夜空を見上げることもなく、お日様の香りがするベッドで眠った。




