家族小景「節分」
二月三日になった。
ショウのお父さんは、仕事から早く帰ってきたかと思うと、紙で作られた鬼のお面をかぶって現れた。
「がおー、鬼だぞ」
「あはは、鬼は外~」
ショウのお母さんが、笑ってお父さんの鬼に豆をぶつける。
ショウはというと、豆を持って、泣きそうになりながらお父さんの鬼を見ていた。
「どうしたの、ショウ。やらないの」
お母さんが、すこし心配そうにショウに聞く。
「あのね、鬼さんが、かわいそう」
ショウは涙をこらえていた。
「でもね、ショウ。鬼をやっつけないと」とお母さんが言うと「鬼さん、かわいそう!」とショウはムキになった。
「がおー、優しいやつだな」
お父さんの鬼が、ぎゅっとショウを抱きしめた。
「はい、鬼さん。豆あげる。自分の年だけ、食べるんだよ」
ショウは豆をお父さんの鬼にあげた。
「優しいやつのところには、悪さはしないぞ。がおー」
お父さんの鬼は、玄関から去っていった。
「ショウ……」
お母さんも、ショウを抱きしめた。
「いーち、に、さん、し、ご!」
ショウは持っていた豆をお母さんと一緒に数えて、豆を食べた。
ガチャリと玄関のドアが開いて、お父さんが戻ってきた。
今年も、悪いことがないように。
家族みんなで祈りながら、節分を迎えた。
今日の夜は、恵方巻だ。