世界群と寝相、そして謎の信頼
世界の狭間をいくつか抜けて私達は巨大な本棚が立ち並ぶ世界群の狭間までやって来た。
この見ようによっては巨大図書館に見えるここは、その本棚に並ぶ本の一つ一つが世界への入り口となっている。
なら、いまその世界群にどんな危機が訪れているのか。
それは私がここに来た時点ではっきりとわかった。
「世界が、朽ちているな」
いつもなら色とりどりな背表紙が見える世界の入り口の半分より少し多い位が、色あせて古びて、ぼろぼろになり、手を触れれば壊れてしまいそうだった。
この世界達は滅亡の危機に瀕すと、疲労し、外見も分かりやすいくらいぼろぼろになる。
前に私がここを救った時は本棚ごと崩れてバラバラになりそうだったので、それと比べるとそんなに危機でもない。
だが、リモービョから見れば相当な危機だろうな。
「ああ! もうあんなところまで侵食が進んでいる!? 早く行かなくちゃ! グァットジーイル、スピードを上げますがよろしいでしょうか」
「ああ、別に構わない」
惨状を見て焦るリモービョに先導され私達は飛んでいく。
緊張感のないソゥヲバーリュはスピードを上げると聞いた瞬間に私の足にしがみついた。
「何をしている、自分で飛べ」
「いやいや、ちょっとめんどくさくなってきてさ、早く飛ぼうと遅く着こうとこっちがやることは変わらないし、それとここ最近忙しくって寝てないんだ、ちょっとビリゥヴァ貸してよ」
「……まあいいか、ほら、入れ」
「感謝す……ずーかー」
言葉半ばで寝息をたて始めたソゥヲバーリュを私はビリゥヴァにつっこむ。
だが、寝相の悪さからかそこから頭から腕までを出して私の体に抱き着くのはやめてほしい。
背骨を折り砕かんばかりに締めてくるし、背中に押し付けられた顔から湿った何かが背中を濡らしている。
十中八九よだれと鼻水だ。
洗えば落ちるが汚いと精神衛生上よくない。
それを言ったとしてもぐっすりと眠っているので聞いてくれないだろう。
後で起こした後に諸々仕返しを食らわせてやろう。
「あの世界達の破滅はいつから始まったんだ?」
ソゥヲバーリュは置いておいて私はリモーピォにそう声をかける。
急いでいても私の声を聞いて顔をこちらに向けて語り出す。
「それはわーたしにはわかりません、わーたしは破滅が始まったと聞き、役目を果たすべくグァットジーイル、あなたを探すために飛び立ったんです、わーたしは組織の中ではかなり有名な方だったので破滅の手先に呪いをかけられ、しょうがなく呪いを軽減するために体を二分せざるを得ず、その時に記憶があいまいなって、さらには他の意思も混同してしまい、軽率な行動をとってしまいまして申し訳ございません」
「そう言う事なら別に気にしない、謝る必要もない」
「さすが寛容で心も広い救世主、やっぱりわーたし達の世界を救うのはあなたしかいない」
今のどこに信頼が深くなる要素があったのかわからないがリモーピョは頬を染めて瞳を潤ませ、今にも涙を流しそうになっていた。
生憎だが世界を救うのは私ではない、この世界群の人々、その中にはもちろんリモーピョも含まれている。
なのであまり信頼されても何も出ないぞ、とは口には出さないが、心で言っておく。
「ガゼル、どうやら一度、敵のお出ましのようだね、目が覚めたソゥヲバーリュからの耳寄りな情報だけど寝起きだから機嫌は悪いよ」
魂の会話でソゥヲバーリュから通信が入る。
私もその敵の存在は探知の詠唱により、事前に察知していたので特に問題はないが。
さて、向かってくるのはどうやら人間のようだがどんなことになる事やら。
口の中で詠唱しながらリモーピョに敵の襲来を知らせた。