逃走と援軍、そして決意
何者かと聞かれても、ここで答える事は出来ない。
ここで声を出したりしても仮面を通して出るのは全く別の、性別さえ違う声だが、喋り方などでバレるかもしれないから。
という事でここは無言で離脱して、他のエンドフォグの元へ行こう。
とはいえ天法のエキスパートである初希から逃げ切るのは少し大変か?
まあ、やれない事ではない。
初希と私では年季が違うし使える術の数も違う。
それにここら辺のエンドフォグはもういない、ならとっとと逃走だ。
魔力を使わないように脱出するために私が選択するのはまたも世界管理官コード。
ただし先程使ったようなすさまじいモノではなく、下っ端だけが使える使い捨てだが。
一応これでも世界管理官の手伝いをしていた時期もあるので、使い捨てのコードはいくらかある。
これはいちいち許可を取らずとも使えるモノなので節約を考えなければ自由に使うことが出来る。
「世界管理官コードWW、座標移動」
「っ! 待って! 答えて! あなたは誰!? ガゼルなの!?」
こちらに向かって手を伸ばしながらそう叫ぶ初希。
その言葉に一瞬私の心臓がはねた。
何故この姿を見て私の名前が出てくるのか?
疑問は残るが私は初希が伸ばした手を避けながらその場から姿を消した。
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さて、逃げてきて、別のエンドフォグを狩ろうかと思ったが、そこで私はミスに気付いた。
何せ急いでいたものだから全く気にしてはいなかったが、異空間に収納しているこの仮面を取り出した時の魔力がまだ極微量ながら仮面の方にくっついていた。
この量は気づかれるか気づかれないかで言えば微妙な所だ。
もしかしたら初希がこの魔力の情報から追いかけて来るやもしれない。
先程の表情はかなりの必死さがあった。
何を必死になっているのかが気になったが、今はそれよりもエンドフォグだ。
奴らを何とかしなければ世界がなくなって初希も死んでしまうからな。
「あーあー、聞こえる? ガゼル、こっちの援軍がそっちに着くころだと思ってのご連絡なんだけど、手が空いたからわたしもそっちに行くよ! そっちの様子はどんなもんかな?」
「まったくもって手が足りていないので早く来て欲しかった所だ」
「そりゃよかった、わたしも速攻で行かせてもらう、持ちこたえてね」
「ああ、やれるだけの事はやるさ」
ソゥヲバーリュからの通信が入り、私は安心した。
何人か援軍が来れば何とかなりそうではある。
通信が切れると同時にこの世界の中に入ってくる数人の世界管理官の気配を魂で感じとった。
時間ぴったりといった所か、とりあえず連絡を取り、エンドフォグの座標を送るか。
「こちらガゼル、早速で悪いがエンドフォグの場所を送る、そちらでも対処してくれ」
「はっ! あなたがかの有名なガゼル様ですか!? ご協力ありがとうございます」
情報を送り、どこのエンドフォグに対応するかの分担をして私はまた飛ぶ。
変装は、初希や他の海撃隊が万が一にでも私を追ってきた場合に備えてまだ解かないでおこうか。
さてと、分担した場所に向かおうとした時だ。
海の方向からすさまじい音と共に水柱が上がった。
天に届く程に上がった巨大なその水柱の中から、それと同等かそれ以上の大きさの巨体が現れた。
エンドフォグか? と一瞬焦ったがよく見なくてもその姿は全く別のモノ。
禍禍しくも力強い肉体と身体の至る所から生えた無数の海藻やタコのような触手、外の世界の脅威ではなく、この世界の脅威、すなわち魔物であった。
エンドフォグの攻撃に便乗してか、世界を自分たちのモノにしようと浮上して来たらしい。
あの大きさの魔物は私がこの世界の記録を探った時にはなかったのでおそらくはここを好機と見た深海魔達が放った虎の子であろう。
さらに面倒なことになって来た。
世界管理官の方から援軍が対処するのはエンドフォグのみ、この世界の中の存在に危害を加える事は一部の例外を除いてない。
つまりあの魔物は海撃隊やその他の部隊が対処に当たらなければならない。
しかし、エンドフォグがこの世界各地に散っている今、その戦力は分散されてしまった。
あの明らかに強大な力を持った魔物を倒すにはかなりの戦力が必要とされるだろうに。
こうなったら、なりふり構っていられない、初希から、ひいてはこの世界から、私の力を隠す事にも限界が来てしまったか。
たとえ私が追われたとしても、この世界から出る事になったとしても、この世界が滅んでしまうよりはいい、というかそちらの方を選ぶべきだ。
ならここからは詠唱を使おう、そして世界を救うのだ。
脳裏に映る初希との穏やかな日々を見ないように振り切り、私は詠唱をするため、口を開いた。




