変装とコードS、そして遭遇
異空間にいざという時の為に収納しておいた仮面を取り出す。
ビリゥヴァの中から全ての道具を取り出すには多すぎたので最低限使うモノの中でもなくしても問題ないモノをいくつか入れておいたが、今回はそれが役に立つな。
詠唱で無駄な魔力を使ってしまうのはエンドフォグの量から考えて悪手なのでこちらを使う。
他の正体を隠す方法もあるがこれより手っ取り早い方法はないのでとりあえずはこれを顔に装着する。
目を出す穴のない仮面は一瞬私の視界を遮るが、すぐにその闇は晴れ、普段と変わりない世界を見せた。
ちょうどいい所にあった川の上を通りすぎる時に私の姿を水面で確認すると、そこにはいつもの私ではなく光る衣を身に纏った絶世の美女が映し出されていた。
この仮面はある職人がマリィの美しさに魅せられて、彼女の美しさを再現しようと魂をかけて作った仮面の複製だ。
本物のマリィと比べるとその美しさは劣るが、この位の方がいい。
完全な再現などされたら変身した者が世界を滅ぼしてしまうからな。
さて、この姿で飛んでいけばまずバレる事は無いだろうが油断は禁物か、しぐさで気づかれるかも知れない、初希の勘の良さというか、女の勘というか、わずかな事も見逃さない海撃隊の隊員としての目ざとさというか、どれにしろ気をつけなければ。
緊張はしない、こういう緊迫した状況など何度も潜って来たのだからな。
エンドフォグと初希と私の距離が詰まる。
さて、やるしかないな。
・
初希とエンドフォグは私が着いた時にはすでに交戦状態に入っていた。
初希が天法で作り出した不可視の網がエンドフォグを捕らえるかといったタイミングで私もその場に現れる。
場所が森だったので、低空飛行で木々の間に入り、空中で戦いを繰り広げる一人と一つに気付かれないように様子をうかがう。
詠唱を使えば気づかれ、魔力探知から追われることとなる。
なら別の方法をとるしかない。
不可視の網はエンドフォグの動きを封じたかに見えたがそれも一瞬、体積が突如増え、エンドフォグの体が網目をすり抜けて逆に不可視の網の方を飲み込んでいく。
初希はそれを見て動揺する事なく次の天法の術式を組み始める。
冷静に対処しているが、私から見て、その姿はどこか焦っているように見えた。
と観戦しているだけではない、エンドフォグの注意が初希に向かっている隙に私は準備を終える。
「世界管理官コードS、実行許可申請! いいか?」
「もちろんに決まっているよ、やっちゃって! 責任はわたしが持ったり持たなかったりする! 超独断だけどガゼルに迷惑かけてるから押し通すさ!! ぶちかませ! ぶち殺せ! はああっはあああああ!!」
魂の通話でつながったソゥヲバーリュからうるさい叫びでの許可と共に世界管理官専用の世界改変の技法が私の頭の中に流れ込んでくる。
流れ込む速度が前より少し遅かったが、器の体を新しくしたからだろう。
技法が私の中へと完全に入り私の左手が光る。
世界管理官コードS、それは世界管理官に与えられる世界管理の権能の一つの名称。
二人の視線が互いに向いている間に私は木々の間から飛び出す。
一回で決める。
光る左手を頭上にかざし、私はエンドフォグにそのまま突進する。
そしてその左手がエンドフォグに触れる。
といってもエンドフォグは煙のようなものなので感覚はほとんどないが。
「存在消滅」
一言、そう唱えると左手の光が目を焼く程の光を放ち、辺りを覆いつくした。
言った通り、そのまま、世界からその存在を消し去る権能。
普段だったら、そして普通の世界管理官であったならこんな権能をすぐに貸し出したりはしないのだが、ソゥヲバーリュは二つ返事で私に貸し出してくれた。
正直危険すぎると思うのだがそのおかげでこれが出来たワケであるし今は言わないでおこう。
光が晴れる。
そしてそこには存在を抹消されたエンドフォグはもちろんいない。
「あ、あなたはだ、れ?」
私と未だに眩しさで目がくらんでいる初希だけが残った。