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焦りと手紙、そして疑念

 迫ってくる初希の進路は明らかにまっすぐに私に向かってとられている。

 初希は世界各地にある海撃隊の中でも屈指の実力を誇っている、私の魔力を感知して危険な魔物と判断して飛んで来たのであろう。

 こちらとしては最低限の魔力を使う事で探知術式の網をくぐろうとしていたが、どうやら焦りが原因か失敗してしまったようだ。

 ここから離脱することは容易だ、初希に顔を見られる前に転移の詠唱でこの場を離れてしまえばいい。

 しかし、エンドフォグがこのあたりにまだ残っている、初希がそれに出会った場合には無残にも殺されて糧にされてしまうであろう。

 実際エンドフォグの反応が移動し、このままいけば初希の前を横切り、立ちふさがってしまう。

 つまり逃げ道はない、ばれないように詠唱で顔を加工しておこうか。

 私は初希とエンドフォグの方へと飛んだ。

                        ・

 突如魔力を持たないのに魔物以上に凶暴な怪物が現れ、街の破壊を開始した。

 太陽が空に昇っていくらも経っていない朝の事で、普段であったら夜間の勤務から帰ってきて眠りについているはずの初希も、緊急事態の為に起きだしてこの怪物の撃退に当たっていた。

 夜間の巡回をいつもは任務としている初希にとって朝の任務は久しぶりの事であったが、眠気で集中を乱す事は無い。

 海撃隊は法術を使う者の中でも天法と呼ばれる高等法術を使える者達の集まりだ、少し寝ていないからといってその腕が鈍る事は無い。

「とはいうモノの、ちょっとばかりきついかな」

 隊員指定の特殊な素材で作られたスーツの裾を風にはためかせながら、複数現れた怪物の内の一匹が確認された場所へ飛びながら初希はため息を吐いた。

 眼下は海、昇ったばかりの陽の光が海面を照らし、輝くブルーカーペットといった初希にとってあまり見る事は無い眩しく珍しい光景であったが、その心は踊っていなかった。

 眠気で鈍る事はない、とは言うものの、正体不明の怪物が突然何の前触れもなく出現して、街を荒らし始めたという知らせは、夜間の警戒をしていて何の予兆も感じ取れなかった初希の心にダメージを与えていた。

 自分の実力であればすべてとは言えないがわずかな魔物の魔力でも感じ取れるし、事件の予兆を掴める、

と思っていたので、そのダメージはかなりのモノだ。

 少しの見逃しであったらそこまでのダメージではないが今回起こった破壊はその少しを大幅に超えていた。

 何せ現れた怪物は、近くにあった街を壊滅させ、さらには跡形もなく吸収してしまったのだから。

 しかもそれが世界中の様々な場所で現在進行形で起こっている。

 自分がぞの異変に気付けていれば、という思いが初希の心に重しの乗せていた。

「どうしたの? 元気なさそうじゃん、まあ当たり前かー、時間外勤務なんて久しぶりだしめんどくさいもんね~、あたしも久々だよ、しかも今日は本当だったら休日のはずなのに、まったく迷惑な事もあったものだよね」

「う、うん、そうだね」

 初希の同僚である退下のきした 小波こなみがため息を吐いた親友を気にかけて声をかけてくる、そして愚痴った。

 休みの日だと思っていたのに急に仕事に入ったのだ、愚痴りたくもなるだろう。

 しかし、初希はその愚痴にさえまともに答えられる気分ではなかった。

「あたしもさっぱり気づかなかったんだからさ、そう自分だけで背負わないでよ」

「そうだね、ありがとう」

 小波が励ましの言葉をかけるが初希の表情は暗い。

 その理由はもちろんこの事態に対しての責任感もあったが、もう一つ、数日前に届いた謎の手紙の内容、それが心の中で引っ掛かっている事もあった。

 謎の人物がポストに突っ込んだモノは黒い紙に白文字で書かれたいくつかの文章。

 その文章がここ数日初希の心に暗い影を落としていた。

 曰くその文章はこうだ。


 游島 初希 

 あなたと共にいる男についてあなたはなにもしらない

 あの男は人間ではない 化け物だ

 ヤツの体には莫大な魔力が秘められている ヤツのその魔力はこの世界のどの魔物よりも強大だ

 そんなヤツがなぜ海撃隊のあなたと共にいるのか?

 それは海撃隊の油断をさそい 世界をその魔力で支配するためだ

 いずれヤツはその力をあらわす 必ず きをつけろ


 どこの誰とも知れない人間から差し出されたその手紙を普通ならば信じないだろう。

 しかし、初希にはこの手紙がいたずらや嘘のモノだとは思えなかった。

 ガゼルには謎が多すぎる、明らかに怪しい。

 帰らないガゼルへの疑念が胸中に渦巻いていた。

 それから数日後の今だ。

 破壊の跡を見た時、初希は真っ先にこの手紙が脳裏をよぎった。

 あんな破壊が出来る魔物はそれこそ莫大な魔力を持っていなければなしえない。

 だとするとここ何週間か家を空けていたのはその破壊の準備のためか。

 確信ではない、がその近くまで来ていた。

 だから初希は怪物をすぐに感知できるように気を張り巡らせていた。

 愛するガゼルが怪物でないことを願いながら。

「何かおかしいよ、初希、体調悪いの?」

「いや、大丈夫、何でもない、何でもないの」

「本当に? とても言葉通りには見えないけど?」

 初希の様子は明らかにおかしく、小波は怪しいモノを見る目で初希を見る。

 しかし初希は言わない、確定ではないから、信じたくないから。

 と、初希の感知の網に小さな魔力反応が現れた。

 普段であれば小さな魔物のモノだとして無視できるが、初希にはどうにも引っ掛かった。

 怪物の目撃地点とは全く違う方向だが、勘がこちらに何かがあると言っていた。

「ちょっとごめん、先に行ってて!」

「えっ、はいい!? どこ行くのよ!」

 そう思った初希の体は、方向転換をしていた。

 親友を置き去りにして、任務を置き去りにしてでも知りたい強い思い。

「もっともっと、速く、速く!」

 焦りと不安で心臓を高鳴らせながら初希は飛んだ。

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