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オンジェヤとガゼル、そして私

 世界の狭間に出てきた私が見たのは金髪の若い少女だった。

 歳は16歳くらい、青いローブを着ている。

 背は高く、私が176センチメートルくらいの背の高さだとすれば頭一つ高い。

 その容姿はそこら辺ではお目にかかれない位には美しい。

 オンジェヤだろう。

 私に気付いた彼女はすぐに飛んできて背筋を伸ばして頭を下げた。

「お初にお目にかかります、先程も名乗りましたオンジェヤです」

「ああ、どうも、ガゼルだ」

 突然礼儀正しく挨拶されたので私も頭を下げ返した。

「それでは早速わたしの……わたし達の世界に行きましょう、ガゼル様が来てくださるのであれば救われる」

 オンジェヤは私が居れば安心とばかりに先程までの焦った声とは全く違い、元気な声でそう言った。

 正確には私ではなく私と同じ名前の誰かがだが。

「ところでオンジェヤ、私が誰だか知っているようだが」

 なので聞いてみた、その私ではない誰かが何者なのかを。

 ついでに今のうちに誤解を解いておこう。

 誤解されたままだと気持ち悪い。

「もちろんです、救世の勇者、王国を滅亡寸前まで追い込んだ魔獣モォユヲィヴァコォクァをわずか一節の詠唱で撃退し、空から人々に絶望を振りまいた極小隕石ポモレンを片手で握りつぶして、魔人の軍隊ノヴォクコイジョに一人で立ち向かい勝利したなど、様々な世界の危機に一人で立ち向かい、その全てから世界を救って百年前にその姿を消した伝説の詠唱者、ガゼル・ヌウィブフ、子供でも知っていますよ」

 自信満々にオンジェヤは私の知らないガゼルの情報を語った。

 予想通り、私はそのガゼルではない。

 私は世界なんて救っていない。

 それにあの世界の時の流れ方から推測するに私があの世界を出てから経った月日は百年では足りない。

 百年に天文学的な数字を掛け算してやっと足りるぐらいの年数は経っているはずだ。

 ということで誤解されていることが疑う余地のない事実となった。

 あとはそれを解くだけだ。

「よく百年も前のことを知っているな」

「だから常識ですよ、一般常識、知ってて当然です」

 褒められてまんざらでもなさそうにオンジェヤは胸を張る。

「だが残念ながら悪い情報がある」

「っ!どんな情報ですか?」

「それはな……」

 悪い情報といった途端顔色が悪くなるオンジェヤを見て少し言いにくくなるが、言うしかあるまい。

「私はそのガゼル・ヌウィブフではないんだ」

「……………」

 私の言葉を聞き、オンジェヤは固まった。

 言葉の意味が分からず思考停止をしたようだ。

 だが、さすがは世界を超える能力を持っているだけはあり、すぐに動き出した。

 私から素早く距離を取り、右の手のひらをこちらに向ける。

「貴様っ!たばかったなっ!」

 怒るのは想像できたがよくもまあこんなにころころと態度が変えられるものだ。

「たばかってはいない、私の名前は本当にガゼルだ、つまりは同名、勘違いさせてすまないな」

「勘違いさせるのはたばかるのと何ら変わりはない!」

「なら、たばかってしまいすまない、だがあなたと生まれた世界が同じなのは事実、だから私を連れて行ってはくれないか」

「連れて行って何になる?救世の英雄ではない貴様を連れて行ったところで奴らに敵うはずがない、それどころか貴様のような奴、わたしにすら敵わない」

「……」

 大きく出たな、いくら怒っているからといってもそこまで言うか。

 私は長く生きているからと言って別に心が広いわけじゃない。

 若気の至りを笑って流せるほどいい奴じゃないし、そもそも子供があまり好きじゃない。

 子供があまり好きじゃないのはマリィコールズのせいでもあるがな。

 ならどうするか。

 相手の実力が分からないのにそんな事を言う愚か者は懲らしめてやらねばなるまい。

「前言撤回はさせないぞ」

 私はオンジェヤの目を見る。

 その目からは私への敵意があった。

「そんな事をするものか!呼ばれ、従え、尽きぬ光よ、貫き滅ぼせ、我、詠唱す」

 オンジェヤの詠唱に応じ、彼女の構えた右の手のひらから無数の光の槍が飛び出し直線、曲線の軌道を取り、私に向ってそれこそ光の速さで迫ってきた。

 詠唱の中でも難易度の高い高位詠唱と呼ばれるものの中の一つだ。

 こんなものまで使えるとはなかなかの手練れだな。

 まあ高位だろうと当たらなければ意味も痛みもない。

 無数の光の槍は私に迫ったが、至らない。

私達がいるのはコーポィアスの世界から出てきたところ、下層世界達の入り口がある世界の狭間だ。

 つまり最奥に蠢く全てを食らう穴の引力がある。

 光の槍はそれに引かれて闇の底へ落ちていった。

「詠唱をする時は、場所を考えてから唱えるものを選べ」

「っ!うるさい!現れろ、全てを食いつくすあ―――」

「そして、戦いは二度詠唱できる程甘くない」

 オンジェヤの詠唱が止まる。

 どころか表情も体の動きも止まり、動けなくなっているだろう。

 私が詠唱をしたからだ、声を発さない無声詠唱を使ってな。

 使ったのは相手の目を見つめながら唱えることで相手の身体を操ることが出来る詠唱。

 オンジェヤが光の槍を放つ前にすでに勝負は着いていたという事。

 あえて詠唱させたのは実力差を示すためだ。

「さて、動けないだろうオンジェヤよ」

 固まったオンジェヤに私はゆっくりと近づく。

 内心何を思っているのか調べる事はできるがあえてしない。

「前言撤回はさせないと私は言ったな」

 オンジェヤの目に涙がたまる。

 額を汗が伝い、制御を奪われた身体ががたがたと音が聞こえそうな程震えている。

 その心なんて調べなくても分かった。

「気が済むまで仕置きをさせてもらうぞ」

 恐怖、オンジェヤはそれを感じていた。

 私はオンジェヤの頭に優しく手を置き、少し笑う。

その後、どういう仕置きをしたか、それは秘密だが、私の気が済んだあと、オンジェヤの目は死んでいたとだけ伝えておこう。ちょっとやりすぎた。

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