目覚めと休日、そして平穏
目を覚ますと私の部屋の天井ではなかった。
それはそうだ、ここは部屋どころか世界が違うのだから。
未開領域からの帰還後に、知り合いの世界の家で私は休息と最初の身体をしまう器を作り、それとこまごまとした色々な事を済ましていた。
器の生成にかかる時間はこちらの世界で一週間、その間に私の住む世界で二週間の時が過ぎる。
二週間家を空ける事を突然知らされた初希には悪いと思っているのでお土産と埋め合わせを検討中だ。
とりあえずは今日を始めるために起き上がり、先程まで私が横たわっていた布団をたたむ。
部屋の中は特に何かおかしいところはない、私の住む世界にもありそうな折り畳みのテーブルとクローゼットくらいしか置かれていない簡素な部屋である。
たたんだ布団は所定の位置に持っていくと、仕掛けによって床に吸い込まれていく。
知り合いはこういう事に凝っている奴なのだ。
簡素に見えるこの部屋も様々な仕掛けがあるが、今はそんな仕掛けを使う必要もなく、私は普通にドアを開けて外に出た。
ここは一応大きな館の形をとっているので部屋から出ると廊下があり、他の部屋に繋がるドアや階を移動する階段に繋がっている、床は落ち着いた色と模様をした敷物があり、壁は少し古びて茶色がかった白色だ。
「おおう! ガゼルさん、起きたのか、おはよう、よく眠れたかい?」
「ああ、おはよう、よく眠れたよ」
見ると廊下の向こうから、この館の主であり、私の知り合いであるモヂワクォメで手を上げた。
モヂワクォメの背丈は小さく、一見子供のように見えるが、私と同じく長く生きてきたものである。ワイシャツを着てスカートを履き、一見少女に見えるが、性別はない、私が今いる世界自体に性別の概念が存在しないし、こちらの基準で判別するにしても性差による体の造りの違いもない、だからと言って特に不便になる事は無いから別に問題はない。
「朝ご飯を食べるかい? それともシャワーを浴びるかい?」
「そうだな……シャワーを浴びようか、少し寝汗をかいた」
「うん、それならお湯を沸かすね、それじゃ、十分くらい経ってから浴室にきてね、朝ご飯はその後で食べるって事でいいかい?」
「ああ、よろしく」
「いいっていいって、ちなみに朝ご飯は何食べたい?」
「君が前によく朝に出してくれたあれがいいな」
「ほほう、あれか、いいよ、じゃあまた後で会おう、ふーふんふーん」
モヂワクォメは朝からご機嫌なようで鼻歌を歌いながらスカートを翻してスキップで階段の方へ向かって行った。
さて、シャワーか、着がえを出さなくてはな。
「開け異空よ、世界を繋げ、我、詠唱す」
物を収納する異空間を開く詠唱をし、何もない虚空に開いた異空間の穴に手を入れ、中を探って着替えと身体を拭くタオルを取り出した。
ビリゥヴァは今、メンテナンスに出していてこの場にはないので、代用として最低限のモノをこの異空間に収納している。
この異空間は重さは関係なく収納できるが、稀に他の詠唱を使う者も同じ異空間を開いたり、何故か重さ制限があったり、生物がしまえなかったりするので、無差別無制限でしまえるビリゥヴァと比べるとかなり不便で、使い勝手が悪い、といってもそれは贅沢な文句だが。
適当な着替えを取り出して、時間を潰すためにこの館の中を少し歩くとするか。
そしたらおそらくはちょうどよく時間を潰せるはずだからな。
そう決めて、私はどこに行くかを考えながら歩き出す。
ああ、穏やかな日々はいいものだ。




