マリィコールズと私、そして焦る理由
マリィコールズとは名前の通り、終焉と破滅の美女マリィを呼び覚まし、捕獲しようとする者達のことである。
様々な世界の少年少女で構成されたその組織を操るのは頂点世界に居座り続ける巨眼。
奴はマリィに心酔しており、嫌がるマリィの意思を完全に無視して彼女を手に入れようとして、目覚めることを望んでいないのに目覚めさせたことがあった。
だが、少年兵で構成された奴らは愚か者ばかりで構成されており、目覚めたマリィの振り撒く破滅の因子によってそのほとんどが消滅している。
それでもなお追ってくる巨眼から逃げるマリィを助け、誰にも見つからない場所に連れて行き、眠りにつかせたのが私である。
それゆえに私は巨眼から恨まれていて、世界の狭間を飛行するマリィコールズは私を見つけると襲い掛かってくるのだ、とても面倒なのにな。
巨眼は頂上世界から目を光らせ、全ての世界の人の心を覗くことが出来る。
そして、幼く、世界を知らない子供たちを巧みな話術で誘導して、命令を聞くように精神に枷をかけ、仲間にするという方法で組織の規模を大きくしている。
そのため、いくら襲い掛かってくる少年兵を屠っても、凶悪な繁殖力を持つゴキブリのようにすぐに無くなった分の人数は補充される。
さらに巨眼は少年兵全員に力を与えている、それが厄介で世界達の中でも屈指の力を持つ組織になっている、世界管理官が手を出せない位に。
そんな奴らがまた何かを企み動き始めたようだ。
他の世界がどうなろうと基本はどうでもいいことなのだが、奴らが関わっているなら別だ、奴らを放っておいてロクな事になったためしがない、それに私の生まれた世界も関係しているようだ。
首を突っ込んでやろう。
「なるほど、ではこの行動はあなたの意思ではないんだな」
「そうです、今言った通りわたしはそいつらの指示で仕方なくここに来ました」
オンジェヤはどこか悔しそうな声で私に答えた。
世界を質に取られ言いなりになって何もできない自分に憤っているのだろう。
「よし、それならば、私はあなたを助けよう、そのマリィコールズを倒し、世界を守るぞ」
「本当ですか!?」
「本当だ、だからこの世界を奪おうとするのはやめてほしい」
「わかりました、ガゼル様がそう言うなら」
私をおそらくは同名の誰かと間違っているオンジェヤは心底驚き、嬉しそうに私の言うことを聞いた。
顔も知らない私と同じ名前を持つ者に感謝しながら、私はオンジェヤに指示を出し、世界の外へと転移させた、そこでコーポィアスもオンジェヤが消えたことに気付いているはずなのだがスピードを緩めることはなかった、やはり何かを急いでいる。
ということで私がコーポィアスに事情を説明できたのはこいつの住処に着いてからだった。
「……ということでお前の世界の危機は去ったぞコーポィアス」
「ソウカ、ソレハヨカッタ、デハオマエハソノオンジェヤトイッショニセカイヲスクイニイクワケダナ」
話を聞いてもコーポィアスはオンジェヤに怒りを表すことはなく、自分の住処をぐるぐる何かを探すように飛び回っている。
反応から見るに焦っている理由は世界の危機ではない事はわかる。
ではその理由とはいったい何なのか。
それはすぐにわかった。
「アリガトウワガトモヨ、ソレデハワタシハヨウジガアルカラコレデシツレイスル」
そう言ってコーポィアスは空間に穴を開く。
これはこいつが自分の住処だけで使える仮想空間生成。
その中は何があっても何の影響も出ない。
人間が見る夢の中のような空間だ。
ただ夢と違うのは他人も一緒にこの空間には入れる事ができ、私もよく呼ばれてはこの中で遊びの相手をさせられている。
そんな空間を広げて、コーポィアスはその中へと入っていく。
その時、私は見た。
穴の向こう、そこに赤い液体が浮いていて、それにコーポィアスが話しかけるのを。
その赤い液体はコーポィアスの声を聞くと不定形な体を揺らしながら喋りだす。
声は聞こえないが私もその赤い液体と会ったことがあるのでわかる。
あれはコーポィアスの伴侶だ。
別の世界の主であるそれとコーポィアスは直接は会わず、ああやって仮想空間で戯れるのだ。
そこでコーポィアスの急いでいた理由がわかる。
伴侶との待ち合わせの時が迫っていた、ただそれだけの理由だ。
だがそれだけの理由でも奴を焦らせる理由になる、あの二体はとても愛し合っているからな。
さて、では私はコーポィアスのように他人のカップルの様子を覗き見するような奴じゃないのでここらで退散するとしよう。
そして、オンジェヤと共に私の生まれた世界へ行き、マリィゴールズの企みをを打ち砕くとしよう。
私はコーポィアスの住処に背を向け、出口へ向かって飛び立った。