崩壊と複雑な心境、そして逃走
「あ……え……っと」
「こんな所で思考停止するな、外の世界は甘くないそ」
私の言葉で平然と余裕のあった表情が崩れたエヂィペンは私の背に乗っているココココ子と同じように一時的にフリーズした。
そんな所は似なくていいと思うのだが呆けたココココ子にそっくりだった。
だがココココ子と違い、エヂィペンのフリーズはすぐに解けた。
少しの間、うつむき、涙をこらえるのに必死そうであったが、それでも顔を上げ、
「ありがとうは、この世界を出してくれた時にとっておくわ」
と言って少し笑顔を見せた。
「ああ、それがいい、では私につかまれ」
私はそれにうなづいて答え、彼女に背を向けた。
ココココ子を背負って支えている腕にエヂィペンがしがみつく。
「では行こう」
そして飛び立つ、この場所を一刻も早く出るために。
・
割れる大地、何度も光を放ち裂け目の入る空。
世界崩壊の光景は何度見ても衝撃的だ。
空から見下ろせば謎の生物達が蠢き、聞いたこともないようなけたたましい鳴き声を上げている。
自分達の滅びを知ったのか、狂ったように騒ぎ、互いを食い合い、殺し合う。
末期も末期、振り向けば地平線のあたりは空も大地も混ざり合って混沌とした風景だ。
空を蠢く生物をかわしながら進む、目指す出口はまだ遠い。
滅びの光景はエヂィペンにとっては目を背けたくなるくらい衝撃的なモノだろう。
だがこの世界を出ると言ったのだからこれは見ておかなければならない、この世界が滅ぶのは核たるエヂィペンが出ていくからなのだから。
「これが世界、わたしの世界……」
「そうだ君の選択した結果消える世界だよ、エヂィペン」
「……この世界は多くの探索者を飲み込んできた、そんな世界なんて無くなった方がいいわ」
自分に言い聞かせるようにエヂィペンはそう呟く。
その心中は複雑なモノだろう。
自分を核として作り出された、いわば生まれ故郷で、しかし、自分を縛り続けた世界。
それがなくなるという事に何を思うのか。
思念から心を読むこともできるが、私は覗く事はしない。
と、ここで張り巡らせた探知に厄介な存在が引っ掛かった。
「ぎぃやああああああああああああああああああああああおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!」
鼓膜を破らんばかりの咆哮、見上げれば私達より上空に輝く銀の巨体が二つ……どころじゃない。
黒き空に輝く星々のようで美しいが今は脅威でしかない。
複数いたのか、あのドラゴン。
一匹見たら三十匹いると言われるあのどんな世界にも何故かいる生命力の塊の黒光りが頭をよぎる。
あれと比べると強さも生命力も段違いだが。
「速度を上げるぞ、しっかりつかまれ」
「わかったわ」
急ぎ、抜けるために速度を上げていく。
探知魔法にドラゴンの群れからブレスを撃つ準備の高エネルギー反応がある。
障壁をブレスをそらす方向に多数張りながら元来た空を戻る。
後方から迫る複数のブレスの衝撃が背中を揺らす。
「うわっつ!! あっつい!! 何で?! うええええええいっぱいドラゴンっひゃえええええっっ!!」
我に帰ったココココ子が背後で叫ぶ、まさに阿鼻叫喚だ。
まあ、再生力があるので放って置いても死にはしないだろう。
ついでに盾になってもらおう。
腕にしがみついているエヂィペンの状態は大丈夫なようで振り落とす心配もなさそうなのでさらに速度を上げて行く。
すると向こうに黒いもや、おそらくこの世界と世界の狭間をつなぐであろう境界が見えてきた。
あともう少しだ。
そう思い、すこし安堵し、私は探知を張り巡らせる。
安心は慢心を生み、判断を鈍らせる、なら警戒に越したことはない。
そしてやはり警戒していて正解だったことになる。
私達と境界との間に飛んでくる大きな気配があった。
背後はいまだにドラゴン達が追跡してきているのにだ。
どうやら挟み撃ちにされてしまったようだ。