反省と発見、そしてドラゴン再び
洞窟の中は、とても不自然に白く発光する岩がところどころに転がっていて、ある程度は見通しが利く。
明かりをつける分の魔力がいらないので良かった。
今の所探知魔法に引っ掛かるのは洞窟の奥にいる生物の反応のみで、他にはただ、空洞が広がっている。
おそらくは奥にいる何かの住処なのだろう、それにしてはやけに深く長い洞窟であるが。
背中にずっしりとした、娘一人分の重さを感じながら、辺りを警戒しつつゆっくり進んでゆく。
仕置きを少しやりすぎたようで、ココココ子は気絶している。
最近あまり機会がないから加減が利かなくなっているな、気を付けなければ。
仕置きが終わった後、
「ご主人様、さすがにやりすぎではないかとわたしは思うんでっすけど」
とアアルからかなり怖がっている様子で言われたのもあるしな。
気つけの詠唱をかけてすぐに起こす方法もあるが、仮面がない今の状態では調子の悪いココココ子は足手まといにしかならないので、おんぶして進んでいるワケだ。
それにさっきのように変なものを拾って食べられてもたまらない。
反省はしているようだったが、すぐに改善できるとは私は思っていない。
先程から怖がったまま、三歩後ろの距離を保ってついてくるアアルに目を向けると、一瞬震えた後、
「な、なんでっしょうか、ご主人様」
とかなりおびえた様子で聞いてくる。
やはりやりすぎた。
「何でもない、やりすぎたと思っていただけだ」
言って、視線を洞窟の奥へ戻す。
本当に気を付けよう、そう心に決め、洞窟の奥を目指した。
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洞窟は、奥へ進むほど、光る岩が増え、まばゆいほどになって来た。
「開け、眼よ、世界を見せろ、我、詠唱す」
逆に視界が悪いので、詠唱で調節する。
そして奥へと進む。
人形の方は自動的に、適度な視界を保てる機能がついているので、アアルの視界も良好だ。
ココココ子はいまだに目覚めず、私の背中でビリゥヴァによだれを垂らしながら気持ちよさそうに寝息を立てている。
のんきなモノだ。
やっと一番奥まで近づいてきているので、視界に生物の影が見えてきた。
詠唱により、望遠が可能になった目でその姿を観測したところ、人型ではあるようだが、妙にもやがかかっていて、明確な姿が確認できない。
視界は詠唱によって開けているのに、だ。
「アアル、あれ、見えるか?」
「遠視モード、起動、…………人型を確認しまっした、でっすが、霧状の何かに覆われて明確な姿は探知不能でっす、す、すいまっせん」
「謝らないでいい、私も同じだ、ありがとう」
アアルの機能でも同様のようで、これは近づかなくてはいけないようだ。
ゆっくりと、警戒しながら霧に隠された人型の影へと近づいてゆく。
その時だった、
「グィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!!」
{うえええええええええええええええええええええええええ!!」
入口の方から先程のドラゴンの声によく似た咆哮が響いてきて、背中のココココ子が起きた、うるさい。
洞窟内に反響して、何度も何度も声は響いた。
「ガ、ガゼルさん!! なんか、なんか来ますよ!」
「さっきのドラゴンの子供だ、ブレスを食って大きくなったな」
声は先程のドラゴンよりは覇気がなく、子供と判断で来た。
だがあのブレスのエネルギー量からすると一気に成体までは成長したはず。
とするならば逃げ場はない、迎え撃つしかないのか。
いや、横穴を掘って逃げた方がいいか?
「ああ!! ガゼルさん、そんな事よりもこっちも見てください」
背中でココココ子が叫ぶ、うるさい、そして背後でこっちと言われてもどっちかよくわからない。
とりあえず反対方向、洞窟の奥を見る。
そこに何も変化はない、霧と人影だけだ。
しかし、ココココ子の目には何かが見えているようだった。
「あれがおかあさんに似た生物です、絶対そうですよ!!」
興奮するココココ子、こっちはそれどころでは…………は?
「お前、見えるのか?」
「ええ、見えます、少しもやがかかっていますけどあれは間違いなくわたしの目的のおかあさんです」
どういうワケかココココ子にはあの霧の向こうが見えるようだ。
そして目的の生物だとするならば行くしかない。
「飛ぶぞココココ子、揺れるからしっかりつかまっていろ」
「はい!」
脱出は後回しにして、一度、ココココ子にその姿を間近で見せてやらなければ。
「アアルも掴まれ」
「かしこまりまっした、ご主人様」
三歩後ろのアアルが足に飛びついたのを確認してから私は身体強化された脚力を最大限使う。
「時よ伸びよ、光よ後ろへ去れ、我、詠唱す」
さらに速度を上げる詠唱をする。
そして踏み出す一歩、その勢いで私は飛ぶ、目的の最奥まで。
洞窟の景色が引き伸ばされたかのように歪み、次に体に少し負荷がかかる。
背負っているココココ子と掴まっているアアルの分だ。
だが、振り落とされることなく二人もついてきた。
私たちは目的の生物の元へたどり着く。