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世界の入り口と黒い炎、そして奇妙な大木

 コーポィアスの世界の入り口の前で止まり、全てを食らう者の引力に逆らいながら浮遊する。

 目の前、その入り口から生えた大木は、引力に引っ張られ、下層世界の底辺へとその枝を伸ばし、見ている今も成長を続けているようだ。

 燃え続ける炎はこの木からすれば永遠のエネルギー源だ。

 しかもこの木は私と同じく詠唱を使いこなす。

 すべてを燃やし尽くす炎の熱にやられずコーポィアスの攻撃を防ぐ事が出来たのは、おそらく何かの詠唱を絶えず唱え続けているからだろうと私は推測する。

「ハヤクドウニカシテクレ、ソレハオマエガヨクシルモノナノダロウ?」

 何故か焦るコーポィアスがそう急かす。

 やはりおかしい、コーポィアスはこの程度で、自分の世界が奪われる程度のことで焦る奴ではない。

 かつて永久凍土の使者が奴の世界に隊列を組んで攻めてきた時も、狂乱に至る踊りの呪いがコーポィアスの世界にかけられた時も、はたまた終焉と破滅の美女マリィが目覚めてすべての世界達が崩壊しかけた時でさえも、まるで焦らず、どころか娯楽を楽しむような態度だった奴だ。

 そんな奴が焦るとはどんな理由があるのだろうか。

 後で聞いてやろうと思いながら私は気味の悪い色の大木に近づく。

 この大木の名は何と言っただろうか、昔の事で忘れてしまったな。

 私の気配におそらくは気づいているのだろうが大木は全く動かない。

 コーポィアスの攻撃を防いだ位だ、防御に関する詠唱を唱えているのだろう。

 近づき、手を伸ばし私は大木に触れようとする。

 すると案の定手が大木に触れる前に、その木の皮より5センチくらい手前で火花が散り、耳をつんざくような高周波があたりに響き渡る。

 指先から大木の拒絶の意思と何重にも結界を張る詠唱の声を感じる。

「ずいぶん厚い防御壁だ、これであればコーポィアスの猛攻を防ぎきれるだろうな」

 呟きながら、その防御壁に手を触れたままの奥へと突っ込むイメージを頭の中に描いた。

「我詠唱す、介入す、無に帰れ、全て全てひとつ残らず、世界へ、塵へ、闇へ、光へ」

 私の詠唱で激流が流れるような音とともに防御壁が溶けていく。

 大木が詠唱を唱えて新しい結界を生み出そうとするが生まれる前に現象自体が流れて消えさる。

 詠唱が改変した事象を溶かして無効化する詠唱だ。

 無尽蔵なエネルギーで成長しようと詠唱を無効化されれば何もできないだろう、この木の知能程度で対応出来るものでもないしな。

 結界が消えてすぐに変化はあった。

 黒い炎が大木の一部を突き破って漏れ出て、大木に亀裂が走る。

 熱量から身を守る詠唱が唱えられないから当然の事だろう。

 私は大木から少し離れてコーポィアスに呼びかける。

「これでいけるぞ」

「わかった」

 返答はすぐに帰ってきた。

 そして行動も早かった。

 コーポィアスが黒い炎を纏い、流れ星を思わせる速さで大木に突撃する。

 破砕音とともに入り口をふさいでいた大木が砕け散り、破片が引力に吸い込まれていった。

 後に残った根も再生はせず、いつものよう黒い炎が噴き出す穴へと戻るだろう。

 コーポィアスは大木に突撃をかけた勢いのまま、世界の中へと入っていったので私は後を追った。

                       ・

いつもは炎のみしかないコーポィアスの世界は、あちこちに伸びた根によって不気味に彩られている。

 少し経てばすべて燃えて消えていつもの風景に戻るだろう。

 珍しい光景を目に焼き付けながら私は先に行ったコーポィアスに追いつこうと飛行速度を上げた。

 なびく黒いマントは詠唱のおかげで燃えることはない、もちろん私自身もだ。

 辺り一面燃え続ける黒い炎と木の根を見ながらしばらく飛ぶとコーポィアスの後ろ姿が見えてきた。

 突撃の勢いそのままに目の前にふさがる大木の残骸を避けずに突っ切り、一刻も早く世界の中心にある奴の住処へと戻らんとしていることがわかる。

 この世界を事実上支配しているコーポィアスにはこの世界の状況が手に取るようにわかる。

 コーポィアスの向かう先に犯人がいるのだろう。

 それにしてもこんな世界を奪って犯人は何をするつもりなのだろう。

 おそらく私と同じ世界で生まれた詠唱使いの様子を探るために私は思念を飛ばす。

 これは思念体たちが暮らす世界にて習得した技術だ。

 思念は世界に縛られず、他の思念を持つ者と通じることが出来る。

 すぐに犯人と思われる奴の思念が見つかった。

 思念ゆえに姿は見えないが感覚や思考が聞こえてくる。

「あのモィンィィの防壁をどうやって破ったんだ!?ありえない、あの生物にそんなことをする能力はないはずだぞ、別の奴を連れてきたのか?探索をかけようにもこの詠唱を解いてしまったら計画が台無しになってしまう、世界を救うためにそれだけは避けなければ、だがどうする?こうしている間にも奴はこちらへ向かって来ている。とするならば間に合わない、どうすればいい?どうすれば……」

 声の主はどうやら若い女性のようで言動からして犯人で詠唱と言っていたのでやはり同郷のものだった。

 モィンィィとはあの大木の名だろう、確かにそんな名前だ。

 彼女は防壁を破られたことでひどく焦っているようだ、予想外の事が起こったのだ無理はない。

 だが世界を救うためとはどういう事なのか。

 気になるな、コーポィアスがたどり着いた後では聞けそうもないし聞いてしまうか。

 思念体はお互いが同調することで会話ができる。

 その要領で私は彼女があまり動揺しないように優しい声を心掛けて話しかけた。

「焦っているところすまないな、こんばんは」

「っっ!!誰だ!?どこにいる!?」

「あまり警戒するな、私はあなたと同じ世界で生まれた者だ、そしてこの世界の主の友人でもある」

「何だと!?ならば敵か、出てこい」

「敵ではない、落ち着け若い者よ」

「うるさい、信じられるか!誰かわからない奴の話なんて聞いている暇ではないのだっ!」

 声にノイズが混じる、同調が拒絶の意思によって乱れたからだ。

「落ち着けと言っているだろう、コーポィアスがそちらに着くまでにあまり時間がない、話せるのは今だけだ、奴がたどり着いたらあなたの計画が台無しになるのだろう?」

「貴様何故それを知っている!?」

「そんな事今はどうでもいいだろう、話を聞かせてくれ」

「……わかった」

 数秒の沈黙の後、ノイズが消えた。

 やれやれ、抑えるのにも一苦労だ。

「私の名前はガゼルという、覚えても覚えなくてもいいがな、あなたの名前は?」

「オンジェヤだ、ガゼル……聞いたことがあるな、……まさかあのガゼルなのか!?」

 オンジェヤと名乗る女性は私の名前を聞き、驚いた。

 何だ?私はあの世界では名を残すような事をした覚えがない、誰かと間違えているのだろう、向こうの世界ではすでに数えきれない時間が経っているのだ、同名の誰かが何らかの伝説を作ってもおかしくない。

「驚いているところすまないが、話を聞かせてくれないか?」

「はっ!はい、何でしょう」

 明らかに態度が変わったが、今は急ぎなので気にしない。

 さて、では時間はあまりないし聞いてしまうか。

 こうしている今も私とコーポィアスは飛んでいるのだから。

「何故こんなことをしているのか聞かせてくれ」

 私がそれを聞くと、彼女は少し沈黙する。

 そして、落ち込んだ声で静かに言った。

「仕方がない事なんです、わたし達の世界を滅ぼさない代わりにこの世界を奪ってこいと言われて……」

「誰にだ?」

 聞きながら私はそんなことをやりそうな奴らを推測する。

 世界を脅迫のネタにできるほど強大な力を持つ者はかなりいるが、その中でもそれを実行に移そうとする愚か者は少ない、世界管理官という者たちが世界の狭間に漂い、世界達の生まれと滅びを管理していて、その管理に従わない者を捕まえて、世界の材料に分解してしまうからだ。

 世界管理官から逃げる事はほとんど出来ない。

 ならば、それをやるのは世界管理官から逃げる事のできるごくわずかな者、その中でもそんな事をやろうとする性格の奴は私の知る中で指で数られる程しかいない。

 オンジェヤが自分を脅した奴の名前を言う。

「名前はわからない、けどマリィコールズと名乗っていた」

 聞いた瞬間思わず舌打ちしそうになった。

 私はその名を知っている、会いたくないのに奴らとはよく会う。

 マリィコールズ、その名は宿敵の名前であった。

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