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山と怪物、そして愚直な突進

「うへえ、気持ち悪い……」

 胃の中の物を全て撒き散らしたココココ子は私からもらった薬を飲み、仮面を着けてもなお気分が悪くいらしく、未開領域の景色に先程までの元気を削がれて、げんなりとしている。

 確かにこの光景は気分を害すモノではあるが、私は特に吐き気を覚える事はない。

 もっと気分の悪くなる光景は世界を探せばあるであろうし、何より私と娘とでは年季が違う。

「この程度で吐くなら、まだまだ精神の修行が足りないぞ」

「む、お父さんから見れば誰だって足りなく見えるよ」

 私の言葉にココココ子がそう返す。仮面の向こうでムッとして唇を尖らせている様子が見ないでもわかった。

「そんな事は無い、私だってまだまだだ、上には上がいる」

 先日も初希の部屋の天井が焦げた件で、どう誤魔化そうかと焦ったばかりだ。

 あの時はすぐに天井の修復をしてその後にコーポィアスを追跡していればよかったのに、切羽詰まったヤツの様子にこっちも焦ってしまった感がある。

 まだまだ私も未熟だな。

 ココココ子の調子が持ち直すのを待って、私達は未開領域の中を飛んだ。

 今の所、生物と言えば地面の上で蠢く黄緑色で棒状の震えるヤツしか見ていない。

「確か、まっすぐに飛んでしばらくすれば見えてくるって言ってました」

「確か、か、じゃああの山だろうな」

 後ろを飛ぶココココ子の言葉に不安を覚えつつも、前に見える扇形の、ひっくり返されたような形をした山へ、言われた通りの道を取る以外に当てはないので、従う。

 探知の詠唱には様々な生物の反応があるが、どれもこちらに近づいてくるものではないので問題はない。

 マリィに似ているというその怪物がどんな容姿をしているのか、これで大したことが無かったら損だな。

 というかだ、私は今気づいたのだが、マリィに似ているというならココココ子自身がとても似ていると思うのだが、マリィの身体から生まれただけあって、ココココ子の容姿以上にマリィに似た容姿を持つ者を私は見た事がない、そこの所はどうなのだろう、後で聞いてみるか、今は周りへの警戒を優先しよう。

 言われた通りにしばらく飛ぶと、山は大きくなってくる、近くで見ると、巨大な山。

 黒い木々が生い茂り、間から眩しく輝く山肌が見え隠れしている。

 探知にはかなりの生物の反応がここに密集していて、情報も表示はされるが、この未開領域自体が初めての場所であるために、情報が出てもその生物の姿は想像できない。

「地面に降りるぞ、山の中に入る」

「わ、入るんですか? ここから探すのは……」

「不可能に近いな、どこに生物がいるかはわかるが、どんな生物がいるかはわからん、先に行くぞ」

「わわ、待ってお父さ~ん」

 尻込みする娘を置き、降りようとすると、慌てて後ろを飛んでくる。

 それを背中に感じながら私は降りてゆく。

 降りてゆくとそれに合わせて山から出てくる生物の動きがあった。

 警戒して無詠唱をしておく。

 生暖かい風が纏わりつき、並の探索者であったらさぞかし気分を害されただろうが、仮面と詠唱のおかげで今の所はとても快適だ。

 といっても並の探索者であったならこんな所には来ないだろうが。

 地面まであと数メートルと言った所で、近づいてくる生物が姿を現した。

 人型だが、その容姿は目当ての怪物とは真逆の容姿、身体から隙間なく生えた蛭のような生物がのたうち、移動するたびに、体液らしきものが地面に線を作る。

 唸り声のようなものがその生物の中心から響いていた。

「あっ、何かでてき……きもちわるっ!」

 ココココ子の素直な感想に同感、それはとても醜悪な見た目をしていた。

 未開領域はこんな生物ばかりなのか、娘の切実な頼みでなければ絶対来ていないな。

 明らかにこちらに反応して出てきたその生物は、こちらを見上げるように人型の首部分を動かす。

 顔の部分も蛭のような生物が所狭しとうねっている。

 何かをするつもりなのだろうか、と警戒していたら、

 ぐあああああああああ、と唸り声のような音が大きくなり、蛭のような生物が飛んだ。

 かなりのスピードで飛来するそれはしかし、私の元に辿り着く前に、私が展開した透明な壁に弾かれ、あらぬところに飛んでゆく。

 準備万端でここにきているのだ、この程度の攻撃では驚く事もない。

 そしてこちらに攻撃してきたのだ、攻撃を返しても問題あるまい。

 私が発動手前で止めておいた詠唱を使おうとした時、

「てぇりゃあああ」

 間抜けな声と共に、ココココ子が背後から飛び出した。

 私にあの生物が攻撃したのを見て、敵と判断したのだろう。

 ただ、ココココ子がとった攻撃手段は愚直なまでの突進。

 どんな生体構造をしているかわからないのに近づくのは危険すぎる。

 だが、止めるには間に合わない、こういう時のココココ子は良くも悪くも一直線。

 こっちの声は聞こえない。

 さて、私の危惧はしっかり当たり、生物の身体の蛭のような生物の中の一匹が、膨張して、大口を開けて、飛んでくる獲物を食わんとした。

「はいぃ? ええええええっ!」

 驚くココココ子、当然勢いは殺せず、そのまま口の中に入って、怪物の恐らくは胃の中に落ちていった。

 本当に世話がかかる、ため息が出そうになるのをこらえながら私は詠唱を発動した。

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