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いつもの生活とデート、そして誘い

「今日は楽しかった、ありがとね」

 つないだ手からぬくもりを感じながら、ゆったりと歩く。

 いつもの見慣れたアスファルトを踏みしめながら隣の初希が私に微笑む。

 先日言った通りにデートに出かけた、場所はとある遊園地だ。

 今はその帰り道、全部のアトラクションを回ると初希が意気込んで走り回るのを追いかけたため、程よい疲労感がある。

「そう言ってもらえて何よりだ」

 初希に微笑みを返す。

 空はオレンジ色に染まり、初希の顔を染めている。

 どこかで鳥の鳴き声がして、見上げると群れを成した椋鳥が飛んでいった。

「すごい!いっぱいだねっ!」

 同じように空を見上げた初希は少し驚いている。

「そうだな、気をつけろよ、糞が落ちてくるかもしれないからな」

「えっ!やだ、どうしよう!?」

 私の言葉を受けた初希が焦った様子で私の腕を抱いて背中に隠れこもうとした。

 上から来るのだからそんなに意味はない。

「天法があるのだからそれで防げばいい」

「あっ!そっかぁ、そうだね」

 その手があったとばかりに表情を明るいモノにした

 魔物と戦う仕事をしているのに、こんな事で焦る姿を見ると少し心配になる。

 明るい表情になった初希は空に向かって手をかざし、

「天よ私に力を、守る盾を、防術、風の壁!」

と唱え、天法を行使する。

 見えない風が頭上を渦巻き、初希の髪の毛を揺らす。

 頭上に身を守る盾を作り出したのだ。

 たかが鳥の糞に大袈裟だとは思わないでもない。

「これで一安心、さぁ、行こー!」

 一仕事終えたという顔をして、私の手を引っ張って初希が走り出した。

 あれだけ遊園地ではしゃいでいたのに、まだ元気があり余っているようだ。

 仕事で鍛えられているのだろう。

 引っ張られて止まるわけにもいかず、私も走り出す。

 初希は年齢のわりに幼い、といつものように心の中で呟いて、彼女から向けられる無邪気な笑顔に、自然と口角が上がるのを、これまたいつものように感じた。

                       ・

 帰って来て、夕飯もそこそこに、久しぶりに長めのお茶会兼おしゃべり会をして、うとうとしてきた初希を抱え、ベッドに運び、自分の部屋に戻ってきた。

 コーポィアスに焦がされた初希の部屋の天井はすでに修理され、また、当初は怖がっていた初希も、その後なにも起こらないので、自分の部屋で寝れるようになった。

 さて、他にやる事も特にないので、私も初希と同じように眠りにつこうか。

 押し入れから敷き布団とタオルケットを取り出し、寝る準備をする、最近は暖かくなってきたのでタオルケットでも寒くない。

 柔らかい敷き布団に背中を預け、仰向けで寝転がり、タオルケットを身体にかけ、天井を見上げて息を吐く。

 街灯の明かりが入ってくる私の部屋は、少し明るい。

 だが、横になったので、カーテンを閉めに行くのは少し億劫だ、このまま寝よう。

 目を瞑り、終わる今日を振り返り、迎える明日を想像する。

 意識がまどろみを通り、夢の入り口まで指し当たった時、私は、自分の部屋の空間が、何らかの力で歪むのを感じた。

 人が寝ようとしているのに、誰だ?

 夢に背を向け、この世界の現実に意識を戻した。

 まぶたを開き、天井を仰ぐ。

 空間への干渉が行われているのば私の真上のそこからだ。

 街灯に照らされ、天井で揺らめく影。

 見覚えのあるシルエットだ。

 私は起き上がり、部屋の明かりのスイッチをいれた。

 そして、天井で蠢く侵入者を見る。

 そこにあったのはデニム生地に包まれた尻。

 空間を無理矢理押し開くようにそれが揺れ、徐々にそれに連なる胴やら四肢が天井に開かれた世界の狭間との口から、私の部屋へと降りてくる。

 凄まじく際どい、丈の極短なデニムのジーンズ、動きやすさ重視の灰色のタンクトップ、体つきは出る所は出で引っ込むところは引っ込んでいる、多く男から見たら魅力的だろう。

「お久しぶりでーーーーーーすっっ!! いぎゃっ!」

 夜だというのに大声で挨拶をした少女は、私の布団の上に墜落し埃と悲鳴を上げた。

 古い団地なので、落下の衝撃で近所迷惑な揺れと音が出る。

「あだだだ、布団って意外と衝撃吸収しないんですねぇ」

 尻をさすりながら立ち上がる少女の名はココココ子、私の知り合いである。

 美しきその容姿は常人を堕落させるそれだ。

 ちょくちょくこちらの時間を気にせずに、例えるなら今のような時間だろうと容赦なく来る迷惑な奴だ。

「それで、何の用だ?」

「あーえっと、その前にこれ、つまらない物ですがどうぞ」

 早く本題を聞いて、寝ようと思って促したが、少女はタンクトップの中、胸の谷間に手を突っ込んで、中から袋を取り出し、中を探って透明度の高い黒く輝く物体を差し出してきた。

「何だそれは?」

「これが本題とつながっているんです、ちょっと持ってみてください」

「わかった」

 言われるがままに手に取ってみる、手触りはさらさらとして、ひんやりとしている、部屋に差し込む街灯の光に負けない黒い輝きを放ち、握ってみると手の隙間から黒い何かがこぼれた。

 黒い何かは床に落ちる前に空気中にもやとなって消えていく。

「この黒いもや、未開領域のか?」

「正解、やっぱガゼルはものしりですね」

 未開領域、様々な世界達の入り口がある狭間にある、空間が歪んで屈折して、入ったら出られなくなると噂される謎の世界の事だ。

 世界管理官でさえ中に入らず、管理を放棄している世界。

 命より世界の謎を追い求める世界探索者達を飲み込んで吐き出さず、入り口付近は常に薄く黒いもやに包まれている。

 そのもやとこの物体から出るもやは同じものだ。

「それで、これと本題に何が関係ある?」

「それは―――」

 聞くとココココ子はすさまじい勢いでひざを折り、床に頭をたたきつけ土下座の姿勢をとり、

「お願いします! 一緒に未開領域の探索をしてください!!」

 やはり近所迷惑を考えない大声でそう言った。

 どうやらまだ私は眠れないようだ。

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